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本日の聴きどころはここ! クラシック、指揮者が解説

2018/6/19付 日本経済新聞 夕刊

京都市交響楽団の定期公演でプレトークする広上(右)=京都市交響楽団提供

クラシックコンサートに出演する指揮者が演奏前に演目の聴きどころなどを自ら語る機会が増えている。音楽家の考えが直接聞ける貴重な場とあって、聴衆の人気も高い。

「還暦ということで(ちゃんちゃんこ代わりに)もらいました」。5月19日、京都市交響楽団の常任指揮者、広上淳一は赤のシャツ、ピンクのジャケットという派手ないでたちで、京都コンサートホールの舞台上に現れた。5月5日に60歳の誕生日を迎えたばかり。広上は聴衆を笑わせてから話し始めた。この日の曲目について自ら解説する「プレトーク」だ。

その日のチケットを持っていれば自由に参加できる公演前の企画だが、客席は7割がた埋まっている。この日の演目は、生誕100周年を迎えた作曲家バーンスタインの交響曲第2番「不安の時代」やショスタコーヴィチ「交響曲第9番」など。「『不安の時代』は社会を比喩した音楽。ショスタコの『9番』は国家をちゃかして書かれた皮肉めいた音楽」。軽妙な語り口で解説は15分ほど続いた。

■初心者も楽しむ

正装に着替えて本番に臨む=京都市交響楽団提供

2008年に同楽団の常任指揮者に就任してすぐ、広上はプレトークと終演後に聴衆と語り合う「レセプション」を始めた。「もともと話すのは苦手だった」と言うが、06~08年に米コロンバス交響楽団の音楽監督となり、聴衆に話をする試みが人気を博したことで日本でも似た仕組みを導入した。

日本のオーケストラ公演の客層はクラシックの知識が深い定期会員を中心とする層と初心者層が混在する。そのため、「事前にしゃべりすぎず、クラシックを知らない人にも楽しんでもらえる工夫をする」。今や広上の公演は毎回ほぼ満席だ。

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団常任指揮者の高関健も、プレトークを取り入れる。年間6回の定期公演はすべてプレトーク付き。7月28日はマーラーの交響曲第4番、9月15日はラヴェルの歌劇「スペインの時」について語る。

1993年から15年間、群馬交響楽団音楽監督を務めた際、学生向け公演を催した経験が生きている。「公演前に聴くポイントを話すことで、学生たちが公演を楽しんでくれた。一般の聴衆にも通用すると考え、自然とトークを入れる流れになった」

■固定観念崩す

東京芸大で教授を務める高関のプレトークは大学の人気講義のようだ。ブルックナーやマーラーの交響曲のように複数の校訂譜が存在する場合は、なぜこの公演でこの楽譜を用いるのかを簡潔に説明する。「楽譜の解釈は時代によって変わる。研究者ではなく演奏者の視点で、聴き手の曲に対する固定観念を崩したい」と高関は狙いを説明する。

プレトークは以前からあったが、主に音楽評論家が担当した。しかし、最近は指揮者自ら登壇することが多い。音楽評論家の渡辺和彦氏は「指揮者が直接話すことは大変好ましい」と語る。

渡辺氏は00年から群響の公演でプレトークを担当した。「評論家は曲の歴史的背景を話しがちだが、指揮者は譜面の解釈を話すことが多い。聴衆は一般論ではなく、その日耳にする音楽の話を聴ける」と指摘。クラシックに詳しくない来場者にとっては聴きどころを事前につかむことができる点も人気の一因だ。

山形交響楽団の音楽監督である飯森範親は「しゃべる指揮者」の先駆的存在で、常任指揮者に就任した04年からプレトークを始めた。「クラシックファンが高齢化する今、若い世代にもクラシックに関心を持ってもらう必要がある。僕にとってしゃべることは指揮者の仕事の一部。プログラムの曲目解説の一歩先を行く話をしたい」。今月21日、山響の東京公演でもプレトークを予定する。

「演奏だけ聴けば分かるという威厳あるかつての指揮者像は今はない」と渡辺氏は言う。音楽を熟知する指揮者がファンのために率先して自ら話をする流れは、さらに加速しそうだ。

(岩崎貴行)

[日本経済新聞夕刊2018年6月19日付]

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