ラードで焼いてカリモチ食感 東京・八王子のパンカツ
食パンに水で溶いた小麦粉をつけパン粉をつけて焼き、ソースをかけるだけ。簡単な調理法の「パンカツ」は東京都八王子市でもJR八王子駅周辺の一部でしか味わえないソウルフードだ。戦後、屋台でパンを肉代わりにして作った商品が発祥という。昭和の時代を感じさせる一品だ。
2013年に地元の有志が地域グルメとして定着させようと日本パンカツ協会を結成した。八王子駅周辺で生まれ育った加藤一詞会長(64)は「駅周辺を何カ所か回っていた屋台のお好み焼き屋が商品の一つとして出していた」と子供の頃を振り返る。
屋台があった神社の近くで約60年前から店を構えるお好み焼き店、やまとは創業当時からメニューに掲げる。店主の青木恵美子さん(81)が鉄板にラードを引き、厚切り食パン2枚に水溶き小麦粉とパン粉をつけて焼いていく。「ラードを使うと揚げ物のようになる」。仕上げにパンカツ専用のウスターソースをかける。
見た目はトーストに似ているが、表面はかりっとしていて、中はもちもちした食パンの食感が残る。甘辛い特製ソースでカツらしい味に仕上がる。厚切りパンを使っているため、おなかもふくれる。「昔はもっと多くのお好み焼き店があり、どこもメニューに加えていた」
創業50年余りのお好み焼き店、夕やけも創業当初からパンカツを提供し続けている。通常のパンカツのほか、牛肉の細切れをまぶした「牛パンカツ」、ハムとチーズ入りの「ハム・チーズパンカツ」の計3種類ある。
同店はサラダ油で焼く。肉が入る牛パンカツはお好み焼きに似た味になる。客から作り方を聞かれることもあるが、店主の岡本幹雄さん(70)は「高熱の鉄板の上で作るからうまく焼き上がる。フライパンだと焦がしてしまう人も多い」と話す。
昔ながらの作り方にこだわらないパンカツもある。居酒屋、2花(にか)の「ハムチーズ入りパンカツ」は、2枚の食パンでハム1枚とチーズを挟み、水溶き小麦粉とパン粉をパンに付けた後に揚げる。同店を運営する市場(八王子市)の市場浩一社長(50)は「クロックムッシュをイメージして作っている」といい、ハムカツに似た味だ。
最近では市内の祭りや高速道路のサービスエリアなどで臨時に販売することもあるという。それでも、パンカツ協会の加藤会長は「まだ八王子駅周辺のごく一部にしかないから、B級グルメならぬC級グルメ」と苦笑する。
屋台料理が発祥のパンカツは、直接調理法を引き継いだ人はいないという。日本パンカツ協会は地元グルメとしての普及を後押しすることを狙い、屋台の味を再現する「推奨」レシピをつくった。
「豚肉の香りと甘みがあり、昔っぽい味がする」(加藤一詞会長)と、油はラードを指定。フライパンか鉄板に多めのラードを溶かし、揚げるように焼くのがコツだ。レシピとは別に、協会がメニューとして出す店舗にパンカツ用に薦めるラードやウスターソースもある。
(多摩支局長 一丸忠靖)
[日本経済新聞夕刊2018年6月14日付]
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