CGで手描き風・暗い配色… 日本アニメの斬新映像
日本が世界に誇る文化、アニメーション。「だからこそ変革が必要ではないか」。そんな志を持つ新進アニメ制作会社が相次ぎ新たな試みに挑んでいる。その挑戦を追った。
「ニンジャバットマン」 CGで手描き風表現
米国の人気ヒーロー、バットマンが日本の戦国時代にタイムスリップ――。アニメ映画「ニンジャバットマン」(15日公開)のアニメ映像制作をワーナーブラザースから託されたのは、長編映画は初めてという神風動画だ。
バットマンと忍者。奇抜な取り合わせだが、「夜の闇に溶けて相手に心理的圧力を与え、使用する武器も似たものがある。タイトルを聞いた瞬間、違和感なくその2つがつながった」と同社代表取締役で監督をつとめた水崎淳平は語る。
神風動画は今最も熱いアニメ制作会社だ。テレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズのオープニングを担当、原作漫画が動き出すような斬新な映像で注目された。連続テレビアニメ「ポプテピピック」では、シュールな笑いと、回によって大きく異なる画風で視聴者をあっと言わせた。
同社を映画に起用した里見哲朗プロデューサーは「彼らはCG技術に寄りかからず、完成度で勝負しているから映像が古びない。長く愛される作品を作ってくれる確信があった」と話す。
同社は設立時から最先端の3DCG技術を使って、手描きのセルアニメのような表現ができないかを追求してきた。映画では得意技が異なるクリエーターに各パートを委ね、郷愁を誘う手描き風、本物と見まごうCGなど一つの作品の中で風合いをがらりと変えた。
「得意な表現に特化することが質の向上につながる。パートごとの絵のバラツキ自体も一つの表現にしたかった」と水崎監督。「最近の日本のアニメは内向きと感じていた。今回の映画は日本のアニメならバットマンはこうなる、という力を海外に示すチャンス」とも言う。
「妥協は死」と社訓はいかめしいが、定時終業を推進するとともに、アニメ制作会社のあり方も変えていきたいという。
「ちいさな英雄」 人物の心情表す配色
「温故知新はいいが、旧態依然はだめ。日本が培ってきた2Dアニメの様式を生かしつつ、新たな表現に挑みたい」。アニメ制作会社スタジオポノックを率いる西村義明プロデューサーは語る。
昨年ヒットした「メアリと魔女の花」に続き、短編の新プロジェクトに取り組む。「ポノック短編劇場」と銘打ち、第1作として短編3本で構成する「ちいさな英雄」を8月24日に公開する。短編アニメが劇場で、しかも全国規模で公開されるのは極めて珍しい。
作品を手がけるのは「メアリ…」の米林宏昌監督、高畑勲監督の右腕として活躍してきた百瀬義行監督、宮崎駿監督作品の原画などで知られる山下明彦監督の3人。カニの兄弟の冒険ファンタジー「カニーニとカニーノ」、母と少年の人間ドラマ「サムライエッグ」、他人に視認されない男を描いた「透明人間」(写真)をそれぞれが制作した。
3人の監督はスタジオジブリで映画創りを経験しているが、例えば「透明人間」は絵画を思わせるザラッとした質感に、主人公の心情を表すようなダークな配色が目を引く。美しく緻密な背景が特長のジブリ作品とは一線を画す。
監督たちには新しい映像表現と、観客の誰かを救ってくれるような内容の作品にしてほしいと要請したという。「バーチャル(仮想現実)だが、現実の世界で生きる力に変えることができるのがアニメ。それはこのスタジオを作った原点でもある」と西村プロデューサー。「高畑、宮崎と偉大な先人がいるが、彼らのおこぼれだけで映画を作ってはいけない。この内容にはこの表現、という作り手の思いを発露する場として短編は機能できるのではないか」
「この10年、20年でアニメは変わったか、今後変わるのか」。そんな思いも背景にあるという。
(関原のり子)
[日本経済新聞夕刊2018年6月11日付]
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