映画『ビューティフル・デイ』 現代の孤独と非現実感
前作『少年は残酷な弓を射る』で母親と息子の歪(ゆが)んだ関係を描いたリン・ラムジー監督の6年ぶりの新作である。今回は行方不明者の捜索と救助を請け負う男を主人公に、仕事上のスリリングなアクションの裏側に潜む男の内面の葛藤に焦点を当て、昨年のカンヌ国際映画祭で脚本賞と男優賞に輝いた。
母親と暮らすジョー(ホアキン・フェニックス)は人捜しのプロ。仕事を完遂するためには荒っぽい手段も辞さない。そんな彼に、州上院議員の10代の娘ニーナ(エカテリーナ・サムソノフ)を売春組織から救出する仕事の依頼がくる。
ジョーは組織に乗り込んでニーナを救い出すが、彼女はまるで人形のように感情を欠いているありさま。しかも父親の議員が自殺したニュースが報じられ、何者かがジョーを襲ってニーナを連れ去ってしまう。ジョーは真相を探ろうとするが、仕事の仲介者は殺された上、彼の母親にも魔の手が伸びる……。
物語の展開はアクション映画のように見えるが、前作でも母親と息子の心のトラウマが大きな意味を持っていたように、ここでもジョーが海兵隊や潜入捜査官の時代に体験した凄惨な犯罪現場のイメージや、少年時代に父親から虐待を受けた心のトラウマが重要な役割を占めて、物語を膨らませている。
そんな主人公の内面の葛藤を、短く挿入される回想で提示する一方、ラムジー監督の演出は、現在のジョーの姿を大写し中心の映像で見せながら、彼に次々と襲いかかる出来事の説明描写を一切省いて展開する。そのため観客は主人公がわかっていることしかわからないので、映像から目を離せない緊張感に包まれる。
映像はリアルで骨太であり、フェニックスの好演と相まって、現代社会の孤独感と非リアル感を浮き彫りにする世界は秀逸である。1時間30分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2018年6月8日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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