映画『万引き家族』 家族の再構築を夢見る
カンヌ映画祭でパルムドールを受けた是枝裕和監督の新作。家族を描き続けてきた是枝が、これまでの問題意識や技法をすべて盛りこんだような迫力がある。
スーパーで万引きする父(リリー・フランキー)と息子。手慣れた連携プレーで食料品をせしめた2人は帰途、団地の部屋から閉め出され凍えている少女を見つけ、家に連れ帰る。下町のボロ家には、母(安藤サクラ)、祖母(樹木希林)、叔母(松岡茉優)がいる。
少女の体はアザだらけ。うどんを食べさせ、夜の団地に返しに行くと、部屋から両親の罵声が聞こえる。母は少女を返せなかった。
日雇い労働者の父、クリーニング工場で働く母、風俗嬢の叔母。人目を避けて暮らす怪しげな一家は、祖母の年金に頼りながら、万引きで食いつなぐ。息子は学校に通わず、少女を連れて駄菓子屋で"仕事"する。
父に労災がおりず、母はリストラされるが、日々の暮らしの中で"家族"の絆は強くなる。ビルに囲まれた家の軒先で見えない花火の音を楽しみ、電車で海水浴にも出かける。しかし息子の万引きの失敗から、一家の秘密が暴かれる……。
格差社会の底辺で暮らす疑似家族の物語である。社会から見過ごされた家族の存在は『誰も知らない』、血のつながらない家族の形成は『そして父になる』の主題に連なる。終盤、一人ひとりが刑事に取り調べられる場面は『三度目の殺人』を想起させる。是枝は尋問される俳優に刑事役の質問を事前に伝えず、安藤らの迫真の表情を引き出した。
悪態をつきながらあさましく金の話をする家族をシニカルかつ寛容に捉えるまなざしは成瀬巳喜男に、省略の効いたきびきびした筋の運びは小津安二郎に学んだのだろうか。ただ、小津が近代社会の不可逆的な家族の解体を見つめたのに対し、是枝は現代社会で解体された家族の再構築を夢見るのだ。2時間。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2018年6月8日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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