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お仕事小説、舞台は普通の職場 働く女性をリアルに

2018/6/5付 日本経済新聞 夕刊

 特殊な仕事に着目しがちだった「お仕事小説」に新たな動きが出てきた。ありふれた職場でしっかり働き、私生活も重視する女性を描く作品は働き方改革が進む時代の空気をリアルに映す。

 「これは経費で落ちません!」(集英社)は2016年に刊行が始まり、6月に4作目が出る人気シリーズだ。主人公は20代後半の経理部員、森若沙名子。きっちり働いて責任を果たし、週末は一人の時間を楽しむ生活に満足している。

 作者の青木祐子は事務職の経験を持ち、「経理は領収書から社内の人間関係が見えて物語が膨らむ」と話す。ただ主人公は社内のいざこざとは距離を置く。勧善懲悪のストーリーで人気を博す池井戸潤「半沢直樹」シリーズとは対照的だ。

■仕事も私生活も

 主人公は「フェア」でなく「イーブン」であることを大事にする。「仕事を続けるにはフェアを主張するのが難しい局面もある。職場の微妙な部分も描きたかった」と青木。「自立のために仕事をする」主人公が共感を得るのは、女性が働くのは当たり前という考えが広がった証しだろう。

 お仕事小説というと近年は、宮木あや子「校閲ガール」など一般になじみの薄い仕事に奮闘する若手の成長物語が目立つが、今年刊行の「わたし、定時で帰ります。」(新潮社)は異色作品といえる。主人公は私生活を重視する32歳の会社員・東山結衣。効率的に仕事をこなし残業しないことがモットーだ。

 作者の朱野帰子には新人鉄道員を描いた「駅物語」などの著作があるが、今作は仕事量も責任も増す30代を主人公に据えた。職種の珍しさより働く人の気持ちを強く意識した。

 すぐ辞めると言う新人、安請け合いのツケを部下に押しつける上司……。どの会社にもいそうな困った人が登場する。主人公が「定時で帰る」を信条とするように彼らにも理由や背景がある。朱野は裁量労働制と固定時間制の2つの働き方を経験。「働き方は人生観やライフスタイルとして語られがちだが、労働時間のマネジメントの問題でもある。時間が延びるほど生産性は落ちるというのが実感」と話す。

 同じく今年刊行の「駒子さんは出世なんてしたくなかった」(キノブックス)の主人公・水上駒子は42歳と管理職が視野に入る世代だ。専業主夫の夫のサポートの下、出版社の管理課課長として平穏な生活を送っていたが、突然の昇進辞令を受ける。「書店ガール」シリーズで書店員や編集者の内実を描いてきた作者の碧野圭は、今作では「働き方に特化しよう」と考えた。

■共感見いだす

 昇進には対外的に女性の活躍を示したい会社の事情があり、駒子自身もなぜ自分がと戸惑う。「知人に聞いた昇進をためらう女性たちの話がショックだった」と碧野。物語では「家庭も大事にする風潮はいいことだが、現実のワークライフバランスは危うい」ことがあらわになっていく。

 働く女性が増えて、どう働くかが社会の一大テーマとなった。こうした社会の変化をお仕事小説も如実に反映する。会社員小説を論じた「会社員とは何者か?」という著書も持つ作家の伊井直行は「女性は男性優位社会の残り香が漂うビジネス本ではなく、お仕事小説の中に自らの迷いや同志的な共感を見いだしているのでは」と指摘する。碧野は「小説が社会のことや、後に続く女性のことを考えるきっかけになれば」と期待を込める。

(桂星子)

[日本経済新聞夕刊2018年6月5日付]

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