『ルイ14世の死』 死に至る人間を凝視
「太陽王」と呼ばれたフランスのルイ14世の最後のひと月に焦点を絞り、死に至る人間の姿を凝視する。異色の秀作である。
1715年8月のヴェルサイユ宮殿。76歳のルイ14世は狩りから戻ったあと、左脚の痛みを訴える。まもなく痛みは激しさを増し、王はベッドからほとんど離れられなくなる。食欲も細り、体は衰弱するが、王が無理してビスケットを食べてみせると、ベッドを囲んだ貴族や貴婦人たちは盛大に拍手してみせる。
王の脚はどす黒く変色し、明らかに壊疽(えそ)の症状を呈するが、侍医たちは重い責任を恐れて、脚を切る決断が下せない。マルセイユの偽医者の怪しい秘薬にまで頼るが、事態は悪くなるばかりで、ついに王は昏睡(こんすい)状態に陥る……。
舞台はほぼ王の寝室のみに限られ、物語の展開にも大きな起伏があるわけではない。にもかかわらず、まったく退屈せずに見られるのは、静謐(せいひつ)な画面が映画的に充実して、どこにも弛(ゆる)みがないからだ。
いまから300年前の事件を描く時代劇である。しかし、コスチューム・プレイにありがちな作り物の感じがなく、リアルな出来事に立ち会っているような生々しさに満ちている。
そうした感覚をひき起こす要因は、蝋燭(ろうそく)の光を活用した明暗法的空間と画面の濃密な質感にある。
また、客観的な観察に徹することで、宮廷の生活やしきたりに対する皮肉なユーモアも生まれているが、けっしてわざとらしい風刺にはならず、つねに自然さを保ち、王の死の荘厳さも感じさせるところが、演出のただならぬ才能だ。
ひとりの人間が死にむかうプロセスだけを淡々と描きだすというのは、題材としてもちょっと映画史に類例を見ない。死体解剖で臓器をあれこれ検証するラストまで、目が離せない。
アルベルト・セラ監督。1時間55分。
★★★★
(映画評論家 中条省平)
[日本経済新聞夕刊2018年6月1日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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