『レディ・バード』 少女から大人への一歩
似た者同士の母娘の関係がホロ苦いアクセントになった高校3年少女の1年間の成長の記。『フランシス・ハ』の主演女優グレタ・ガーウィグが脚本を書き、単独では初の監督作。隅々まで女子目線が行き届く。
カリフォルニア州都サクラメントの2002年。「私を"レディ・バード"って呼んで」、と言っても無視されているクリスティンを演じるシアーシャ・ローナンは『ブルックリン』でアカデミー賞主演女優賞候補だった演技上手。運転中の母の話にむかつけば、車のドアを開けて転げ落ち、腕を骨折する大失敗。カトリック系高校ですぐ親友ができて、学園ミュージカルのオーディションにも合格。好青年のダニー(ルーカス・ヘッジズ)と出会って幸せなある夜、彼が男の子とキスするのを見てしまった。
そのショックで惹(ひ)かれたスノッブな美形の音楽青年カイル(ティモシー・シャラメ)と初体験。青春を生きる少女の相手役に近年話題の若者スター2人を起用したところなど、いかにも女性監督らしい心遣いだ。
卒業後は東部の大学へ進学したいが父は失業中、母(ローリー・メトカーフ)は看護師で州外の大学進学なんて余裕がない。温かな家庭で人種の違う養子の兄とも仲良く育ったクリスティンだが、あんな家の子に生まれたかったと思うお屋敷に呼ばれて貧富の差を知り、お気に入りの男子によってLGBT問題を知る。
そんな1年間。同時多発テロ後の、大人にとっては何かが前と違ってしまった気がする日々だが、少女には初めて知ることの多い新鮮な日々が細やかに描かれ、少女から大人の女への一歩を踏み出したあの頃が懐かしさと共に滲(にじ)み出る。
つい衝突してしまう母と娘はコインの表と裏。結局は娘を送り出すことになる母の寂しさと娘が抱く巣立ちの喜び。そんな哀歓によって人生は続いていく。1時間34分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2018年6月1日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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