平皿に洋風ソース、見た目はカツカレー 長岡のカツ丼
新潟県長岡市のご当地カツ丼は、ご飯の上にトンカツをのせ、とろみがある洋風ソースがかかっている。平皿に盛られているのも特徴で、見た目はカツカレーに近い。発祥の洋食店はすでに閉店しており、この店で修業を積んだシェフらが伝統の味を引き継いでいる。
1931年創業の洋食店、小松パーラーが発祥。初代オーナーシェフの本田正人さんが終戦後、「安くておいしい洋食を食べてもらいたい」と、当時配給だったケチャップなどの材料を使って洋風カツ丼を開発したという。店を継いだ息子の昌澄さんが亡くなり2006年に閉店した。
長岡駅から徒歩7分ほどの場所にあるレストランナカタは1975年の開業から洋風カツ丼を提供してきた。ケチャップベースのソースに砂糖やしょうゆを加え甘酸っぱく仕上げ、何となく懐かしい味がする。トマトには消化を助ける効果があるとされ、完食する高齢者が多いという。
創業者で会長の中田将富さん(77)は小松パーラーの初代オーナー、正人さんの下で修業した。高齢の中田さんから経営を引き継いだ土田智佳子さん(43)は「伝統の味を守っていきたい」と語る。
レストランナカタは洋風カツ丼のほか、「50倍」の激辛まで選べるカレーが人気メニューだ。洋風カツ丼とカツカレーを一皿に乗せたハーフ&ハーフなども提供する。
洋食松キッチンは山本竜司さん(47)と高橋昌樹さん(46)が11年に開業した。2人は小松パーラーの2代目オーナー、昌澄さんの弟子。昌澄さんからレシピを引き継いだ「ファミリーソース」と呼ぶ伝統のケチャップベースのソースと、牛肉や野菜を煮込んだデミグラスソースの両方を味わえる。
日本製のソースより甘みが少なく、香辛料が効いた英リーペリンのウスターソースをお好みでかける。「客の約半分が洋風カツ丼を注文する」(山本さん)という。
小松パーラーから引き継いだファミリーソースを卵でとじた特製洋風カツ丼のほか、エビやホタテなど魚介類と野菜をファミリーソースで絡めたオリジナルの洋風海鮮丼も提供する。
食堂居酒屋、SHOWAなつかしやの店長、小川勇さん(53)は小松パーラーの昌澄さんの甥(おい)。小松パーラーの系列店で働いていた父からレシピを教わった。ソースはケチャップとしょうゆをベースにしたシンプルなもの。夜は酒のつまみとしてご飯抜きの洋風カツが人気だ。
長岡市は1945年の空襲で市街地の多くが焼け野原となり復興を遂げた町。昭和レトロな味が市民に今も親しまれている。
長岡市には洋風カツ丼を提供する洋食店や中華料理店などが30店ほどある。元祖のケチャップベースと、デミグラスソースベースに大別される。生野菜やポテトサラダなど付け合わせとともにワンプレートで盛っているのも特徴だ。
一方、新潟市は「タレカツ丼」が主流。一般的な卵とじではなく、トンカツをしょうゆベースのタレにくぐらせ、ご飯の上にのせるというもの。南北に長い新潟県では、地域になじみのカツ丼にも食文化の違いが見られる。
(長岡支局長 北尾厚)
[日本経済新聞夕刊2018年5月24日付]
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