歯触り抜群のシカ肉 鳥取のジビエ
ナシやらっきょうでおなじみの鳥取県で近年、野生の鳥獣肉(ジビエ)を活用した地域振興が活発になっている。県東部では2012年からジビエ解体業者や飲食店でつくる協議会がジビエ振興を目指す活動を展開。2月には県中西部でも同様の協議会が発足した。シカやイノシシは農林業に食害を及ぼす。そんな「厄介者」を地域振興の宝にしようと、優れたジビエ素材を使ったメニューを提供する飲食店が増えている。
ジビエは家畜と異なり、育った環境に応じて肉質が変わる。鳥取の豊かな自然が育む木の実をエサに、山を駆け巡るシカの肉は引き締まり、きめ細かい食感を生む。解体技術も素材の質を支える。処理頭数が県内最多のわかさ29工房(若桜町)はハンターと連携した迅速な解体処理で県内各地に良質素材を供給する。代表の河戸健さん(74)は50年のハンター歴と10年を超す解体経験で培った技を持つ。
「ジビエが育った地域の食材と合わせると、食材が引き合うようにうまみを醸し出す」。鳥取市のイタリア料理店ペペネーロの木下龍雄オーナーシェフ(65)は解説する。
同店ではジビエのコースを堪能できる。メーンは桜色が鮮やかな鹿のロースト。記者が食べた皿は3歳前後のメスの背肉を使用。春のシカは山菜も好んで食べるため、地場産タラの芽の素揚げも添えた。シカの骨でとったダシに原木しいたけや赤ナシのジャムを加えたソースが一層引き立てる。夏には夏野菜、秋には栗といった地元食材を合わせ、旬のジビエを演出する。
八頭町の洋食店、こおげの夢豆庵では鹿肉ステーキが人気だ。上野光広シェフ(63)は「柔らかい内ももは下手に味付けをしないほうがいい」と、バターと岩塩、自家製ハーブだけで焼く。歯触りの良い食感が自慢で、脂が少ないため健全な満足感がある。
お手軽に楽しむには県庁食堂で毎月第2、第4火曜に提供されるシカカレーもおすすめ。甘口と辛口の合い盛りで、甘口はしょうが、辛口はコショウをそれぞれきかせた。あえて硬い部位の肉を圧力鍋で煮込むことで、程良い歯応えと口溶けを実現した。
わかさ29工房は東京の有名店も顧客に持つ。「ミシュランガイド東京2018」で一つ星のラチュレ(東京・渋谷)もそのひとつ。室田拓人シェフ(36)は「健康なシカを優れた技術で解体するためクセがなくおいしい」と評価する。県内では4月、河戸さんの下で修行した若者が新たに解体施設を開業した。供給量が増えれば、県外で鳥取ジビエを楽しむことができる機会も増えそうだ。
農林水産省が2017年度に初めて実施した野生鳥獣資源利用実態調査によると、16年度の都道府県別のシカのジビエ利用量は鳥取県が北海道に次いで2位だった。ただ先進地の鳥取でも捕獲した鳥獣のジビエとしての活用率は15%にとどまり、大半を土に埋めて処理している。
シカ肉は脂肪が少なく、鉄分が多い赤身が特徴。高たんぱく低カロリーで需要拡大が期待される。鳥取県食のみやこ推進課の担当者は「販路拡大やブランド化を進め鳥取ジビエの利活用を増やしたい」と話す。
(鳥取支局長 山本公啓)
[日本経済新聞夕刊2018年5月17日付]
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