介護用具 高いレンタルに注意、購入補助で賢く
利用者保護のためレンタル代に上限も
厚生労働省は2018年10月から、介護用具のレンタル代に上限を設ける。平均価格を大きく上回る値段で貸し出す業者が問題視されているためで、適正な価格を保つとともに、利用者を守る狙いがある。介護用具のレンタルは自分の家の広さや身体の状態、利用目的に合ったものを選ぶ必要があり、価格以外にも気を配るべき点は多い。注意点をまとめた。
介護用具のレンタルは、介護保険サービスの中で最も利用が多いものの一つだ。介護保険の給付対象となっている介護用具は、車いすや介護用の特殊ベッド、手すりや歩行器など13種類ある。
介護保険から税と保険料を財源とする公的給付が受けられるため、レンタル価格の1割(一定以上の所得がある人は2割)を自己負担すれば使うことができる。貸与価格が月3千円であれば、自己負担は最大でも600円で済むわけだ。「要支援」「要介護1」といった比較的状態が軽い人は借りられない器具もあるので注意が必要だ。
問題となっているのは、介護用具のレンタル料金に極端な開きがある「外れ値」だ。介護用具には薬のような公定価格がない。事実上、業者側の言い値が通りやすくなっており、例えば特殊ベッドでは同一製品で10倍以上の差が出るケースもあるという。レンタル価格の方が販売価格よりも高いケースもあるという。
財務省などが近年この問題を指摘しており、介護分野を所管する厚労省が解決に動き出した。それぞれの介護用具についてレンタル料金の全国平均を公表するとともに、料金に上限を設け、それを毎年見直す方針だ。価格は7月にも公表する。利用者が選びやすいように、事業者に機能や価格帯の異なる複数の用具を紹介するよう求める。
価格以外にも、介護用具をレンタルする際の注意点はいくつかある。
例えば車いすならブレーキレバーの使いやすさ、介護ベッドであれば床ずれを起こしにくくするための工夫があるのかないのか、部屋の広さに合うのかどうかなどがポイントになる。介護大手ツクイでケアマネジャーを務める大谷恵子さんは「介護用品を使ううえでの注意点を分かりやすく丁寧に説明してくれているかどうかが、レンタル業者を選ぶ際の大事な点になる」と指摘する。
介護保険の理念は、利用者の自立をできるかぎり促すことにある。介護用具は自宅で生活を送ることを補助することが目的だ。用具に頼りすぎることで、かえって状態が悪化する可能性を指摘する声は多い。
例えば、介護ベッドを利用する場合、自分で寝起きすることが難しいからと、電動リクライニングの機能が付いたベッドを使うことが多い。ケアマネジャーの伊東郁代さんは「手すりなどを組み合わせれば、ふとんで寝起きができることも考えられる。どのような器具が必要になるかはケアマネジャーとしっかり相談してほしい」と話す。用具を適切に活用することで、状態の維持や改善につながることもあるというわけだ。
自宅で歩行器などを使う際にも同様のことがいえそうだ。在宅生活を送るうえで、家の内外の段差をどうするかは悩ましい問題だ。段差をなくせば歩行器が引っかかってつまずく恐れはなくなるものの、段差を乗り越えて歩くこと自体がリハビリになるという考え方もある。「段差は解消すべきもの」と決めつけるのではなく、ケアマネジャーやかかりつけ医などと相談しながら考えたい。
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浴槽やトイレ、購入補助も
介護用具の利用は、レンタルだけではなく、購入費を介護保険から支給する仕組みもある。他人が使用したものを再利用することに抵抗感がある入浴や排せつなどを助ける用具が対象で、原則として年10万円(うち利用者負担は1~2割)が限度になる。
例えば、自己負担1割の利用者が6万円の持ち運び型トイレを購入した後に、同じ年度のうちに7万円の簡易浴槽を購入した場合を考えてみる。6万円の持ち運び型トイレは10万円の利用限度額内におさまるため全額が保険対象で、自己負担は1割の6千円だ。
7万円の簡易浴槽を追加で買うと、10万円の利用限度額の残額は4万円のため、保険対象となる4万円分の1割、4千円が自己負担となる。これに保険給付の範囲外である3万円を加えた計3万4千円を自分で負担することになる。
利用者が購入費用全額をいったん支払い、自治体に申請して保険給付分の還付を受ける方法のほか、利用者が自己負担分のみを支払い、販売事業者が自治体に申請し保険給付分を受け取る方法がある。最終的な自己負担に差はない。
(小川和広)
[日本経済新聞夕刊2018年5月16日付]
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