TOEIC400点で欧州へ 過労とストレス、部下の助けに涙
TDK社長 石黒成直氏(上)
ルクセンブルクでは仕事を抱えすぎた。写真はイメージ=PIXTA
1982年、石黒成直社長(60)は音楽好きが高じてカセットテープを作るTDKに入社した。
若手時代の担当は磁気テープ事業でした。当時、欧州でアンチダンピング(不当廉売)課税が導入されました。日本からの輸出品に重税が課せられたことで、ルクセンブルクでの工場建設計画が持ち上がりました。新工場の企画書を作ると「おまえが行ってこい」となり、32歳で欧州赴任が決まりました。
現地では仕事を抱え込みすぎて疲弊した。
恥ずかしい話ですが、赴任前の英語能力テスト「TOEIC」は400点台。部下に日本人はおらず、コミュニケーションは全て苦手な英語でしたね。
新工場では生産管理などを担当。慣れない仕事に忙殺され、車で10分の自宅にも帰れない日々が続きました。多忙とストレスで体調を崩し、1年目に体重が8キログラムも減ってしまいました。過労で倒れて病院に運ばれたこともあります。
いしぐろ・しげなお 1981年(昭56年)北大理中退、82年東京電気化学工業(現TDK)入社。14年執行役員。16年から現職。東京都出身。
当時の私は部下と満足に意思疎通ができず、1人で仕事を抱え込んでいました。ある日、夜10時に会議から自席に戻ると机の上に拙い生産計画書が置かれていました。遅くまで働く私を見かねた部下が見よう見まねで作ってくれたのです。
「なぜコイツらと一緒に仕事ができなかったのか」。感謝と後悔と、上司としての情けなさがこみ上げてきて誰もいないオフィスで不覚にも涙が出てしまいました。1人では良いものは作れません。この時、チームで働く大切さを学ばせてもらった気がします。