高コレステロール、自己流食事制限はNG まず検査
日本人の死因で上位を占める心疾患や脳血管疾患の原因となるコレステロール。健康診断で高めの値が出たときには卵や肉、バターなどの摂取を控えようと努力する人は多いが、実は体質によって必要となる対策は異なる。最近はまず体質を調べた上で、食事療法と投薬を組み合わせて治療するのが一般的だ。思い込みから誤った対策をとらず、正しい知識を付けることが重要だ。
東京都に住む50歳代の男性は健康診断の血液検査でコレステロール値が高いと判明し、岡部クリニック(東京・中央)を受診した。
岡部正院長の指示を受け、肉などの食べ過ぎと飲酒を控えて「スタチン」の投薬を続けたところ、4カ月でコレステロールは5分の1の正常値に低下。岡部院長は「現在もスタチンの投薬を続け、値が上がるのを防いでいる」と話す。
コレステロールは全身の細胞の膜などの材料になる。血液中の「LDLコレステロール」は肝臓で作られたコレステロールを全身へ運ぶ脂質などからなる。一方、「HDLコレステロール」は小腸で原形が作られて全身の余分なコレステロールを回収し、肝臓へ届ける。両者の合計が総コレステロールとして数値化される。空腹時にLDLが血液1リットルあたり1.4グラム以上あると、高LDLコレステロール血症と診断される。
動脈硬化の原因
LDLは体に必須だが、増えすぎると血管の壁に付いて動脈硬化の原因になるため、悪玉コレステロールとも呼ばれる。日本人の最大3割がLDLの値が高いとみられ、男性は全年齢で高くなる恐れがある。女性は50歳を超えて女性ホルモンの分泌が減ると、LDLが増えやすくなる。これに対し、HDLは善玉コレステロールと呼ばれる。
注意が必要なのは、卵や肉、バターなどに含まれるコレステロールがすべて血中に取り込まれるわけではないという点だ。帝京大学の寺本民生名誉教授は「LDLのうち7割は肝臓で作られる。食事から取り込むのは3割だ」と話す。
個人の体質の差から、コレステロールを多めに摂取しても血中のコレステロール値があまり上がらない人も多い。そのため、政府は食品に含まれるコレステロールの摂取量の上限を2015年に撤廃した。コレステロール値が高い人は、まず食事療法がどれくらい有効なのか調べ、個人ごとに対策をたてる必要がある。
寺本名誉教授は「まず1カ月、卵を全く食べないように指示し、総コレステロール値が下がるか確かめる」と話す。期間中、肉や乳製品は食べていい。値が約10%下がれば食事療法が効く可能性があるとみて、卵などコレステロールを多く含む食品を控えてもらう。
食事療法で値が十分に下がらない人は、超音波の検査装置で動脈硬化が進んでいるかどうかを調べる。心疾患や脳血管疾患を発症するリスクを判断するためだ。
検査の結果、動脈硬化が進んでいる場合は投薬で治療する。副作用が少なく薬代も安いスタチンを使うのが一般的だ。スタチンはコレステロールが末梢(まっしょう)血管に運ばれたとき、細胞がコレステロールを受け入れるのを助ける。血中にLDLがたまらずに値が下がる。
複数のスタチンを使ってもLDLの値がなかなか下がらない人は、エボロクマブ(レパーサ)やアリロクマブ(プラルエント)といった薬を使う。遺伝的にコレステロール値が高い人や、心筋梗塞を起こす恐れがある人が対象だ。
運動も効果的
食事療法と投薬のほか、運動するとHDLが増え、間接的にLDLを減らせる。速めの散歩やジョギングなどの有酸素運動を1日30分以上もしくは1週間で2時間以上行うといい。筋力トレーニングも役立つ。運動する時間が無くても、立ったまま料理や洗濯をするなど、普段の生活の中で体を使う工夫をするといい。
コレステロール対策で重要なのが、中性脂肪の値だ。寺本名誉教授は「中性脂肪が増えると、LDLの生産が増え、HDLが減ってしまう」と説明する。菓子パンやケーキ、バターに含まれる飽和脂肪酸やマーガリン、ショートニングに含まれるトランス脂肪酸は中性脂肪の値を上げる。
食品中のコレステロールだけに注目するのではなく、総合的な栄養分に気をつけて食事を取り、動脈硬化を防ぐよう心がけよう。
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トランス脂肪酸など含有量 日本、食品表示の義務なく
日本ではコレステロールをLDLとHDLに分けて考えることが多いが、米国など海外では両者を合計した総コレステロールの値に注意を払う。人口の1割程度がHDLが増える遺伝子変異を持つ日本人と異なり、海外ではHDLの値が低い人がほとんどだからだ。
海外で総コレステロールの値が健康維持の観点から注目され始めたのは1960年ころ。当時は値が高い人が多く、肉やバターなどの動物性脂肪の摂取を控える取り組みが進んだ結果、総コレステロール値は減少傾向にある。一方、日本では食習慣の欧米化で動物性脂肪の摂取量が増え、値は上昇傾向だ。今世紀に入ると平均値が米国と同程度になった。
日本の専門家が問題視するのが、動脈硬化を進めるトランス脂肪酸や飽和脂肪酸などの含有量を食品に表示する義務が国内にはないことだ。寺本名誉教授は「米国などでは表示をきっかけに、含有量が減っている」と話す。食品業界や政府の対策が求められる。
(草塩拓郎)
[日本経済新聞朝刊2018年5月14日付]
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