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『孤狼の血』 男たちの悪の華 繚乱

2018/5/11付 日本経済新聞 夕刊

 力作である。2時間6分、一瞬のダレ場もなく物語の面白さと映画的迫力で押しまくる。娯楽映画に徹する気骨が感じられる。

 舞台は広島。東映実録ヤクザ映画の金字塔、『仁義なき戦い』から20年後の物語である。血で血を洗う抗争は終息したものの、暴力団対策法はまだ成立せず、戦いの火種はくすぶっている。地場の暴力団「尾谷組」と、巨大組織を後ろ盾にする「加古村組」との対立だ。そして、加古村組傘下の金融会社の社員が失踪したことから、尾谷組との抗争に火がつく。

 失踪事件の捜査に着手したのは、ベテラン刑事大上(役所広司)と、新人の日岡(松坂桃李)。だが、この大上という男は、ヤクザ顔負けのトンデモない悪徳警官だった。大上の常識外れの行動は、暴力団と警察組織さえ揺るがすものになっていく……。

 『仁義なき戦い』と比較すれば、あの実録映画の鋭利な刃物のように危険な魅力は望むべくもないが、むしろ正統的で骨太な抗争のドラマとして充実した手応えをもっている。

 原作は柚月裕子。ドンデン返しの見事なミステリー仕立てだが、映画はその仕掛けにこだわらず、先輩・大上と新米・日岡の、父と子の葛藤に似た精神的継承のドラマに力点を置いて成功している。

 だが、何よりの見どころは、ヤクザをやらせたらみんな名優という日本映画の役者の伝統である。底知れぬ気魄(きはく)を感じさせる役所広司を筆頭に、シャープさの際立つ江口洋介、狂気とユーモアを同居させるピエール瀧、小狡(ずる)いヤクザを演じてついに金子信雄の域に迫る石橋蓮司など、男たちの悪の華の繚乱(りょうらん)を見ているだけで心が躍る。

 白石和彌監督の演出は堂々たる正攻法で、劇的緊張の糸をちぎれる寸前まで引きしぼって絶やさない。エンターテイナーとしての今後が刮目(かつもく)される。

★★★★

(映画評論家 中条 省平)

[日本経済新聞夕刊2018年5月11日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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