甘酸っぱ辛さが癖になる タイのパパイアサラダ
エスニック料理の代表格としてタイ料理は世界的に人気が高い。その中でグリーンカレーやトムヤムクンと並んで有名なのが未熟なパパイアで作るサラダ、ソムタムだ。
コンコン、カッカッカッ。バンコク中心部。肌を焦がすような強い日差しが降り注ぐ昼下がりの路地に少し湿り気のある鈍いリズムが響く。テーブルと椅子を並べ、ソムタムを看板メニューにした屋台「ノイおばさんのソムタム」に近くの会社員らが列を作る。
バンコクで一般的な「ソムタム・タイ」。細切りの未熟パパイアを小さい臼に入れ、棒で何度もたたいて繊維を柔らかくする。トマト、干しえび、ピーナツ、ライム汁などを混ぜればできあがりだ。
まず一口。甘酸っぱいたれと干しえびの香りが口に広がる。「芳醇(ほうじゅん)な味だ」。そう感じたのもつかの間、口から火を吹く辛さに襲われる。たれに混じる大量の生トウガラシの仕業だ。水を飲んでも辛さは収まらない。時がたつのを待つしかないが、懲りずに何度も料理に手が伸びる。
この「甘酸っぱ辛い」ソムタム・タイのほか、発酵した魚と沢ガニ入りの「ソムタム・プー・プラーラー」は「しょっぱ辛い」。食事の主役としてふかしたもち米と食べる。店主のノイさん(50)は「トウガラシはひと皿に5~6本が普通。トウガラシ抜きの注文もあるけど、大辛なら20本入れる」と涼しい顔だ。
料理研究家シーサモーンさんによると、もともと中部タイの料理だったが、東北タイで辛さを加えて発展し全国に広まった。東北由来と勘違いしている人も多いという。首都バンコクには東北からの出稼ぎ者を支えるこうしたソムタム屋台が無数にある。
屋台で1皿40バーツ(約130円)ほどで食べられるこのソムタムがいま変わろうとしている。
「飲み物は何になさいますか。ワインですか」。バンコクの金融街に近いソムタムダーで女性店員が笑顔で尋ねた。ソムタムはここではワイングラスを傾け優雅に楽しむ一品だ。炭火焼きの豚肉をあえたり、パパイア以外の素材を使ったりするメニューもあり、おしゃれな若者の姿が目立つ。タイでは食の欧米化などで肥満が増えており、ダイエット食として流行に敏感な女性らに支持されている。
タイ湾に面したチャンタブリ県で変わり種を見つけた。郷土料理店チャントーンで出す果物の王様、ドリアンのソムタムだ。この果物特有の強烈なにおいを放つかと思いきや、未熟な果肉を使うため意外にも食べやすい。
出稼ぎ者とともに全国に広まったソムタムは流行の最先端に躍り出た。その発展は止まりそうにない。
タイ料理は刺激的に辛く、甘く、酸っぱいソムタムのように複数の味がそれぞれ主張するのが特徴。北部、東北部、中部、南部と大きく4つの地方に分かれる。華人が多い中部ではいため物などの中華料理、イスラム教徒が多い南部では香辛料を多用するインド料理などの影響を強く受けている。中国とインドという二大文明圏に挟まれ、近隣民族とも深くまじわって多様な民族・文化を抱え込んだこの国の成り立ちを反映している。ソムタムは中国にもインドにもない味と調理法で存在感がある。
(アジア総局 野沢康二)
[日本経済新聞夕刊2018年5月10日付]
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