2018/5/16

介護に備える

ひなたには、くも膜下出血で倒れ、水中運動を1年半続けて施設内の音楽教室でピアノ講師を務めるまで回復した人もいる。

全国のプール施設や水中運動についての情報をインターネット上で提供するサイト「水夢(スイム)王国」を運営する藤木太郎さん(74)によると、屋内の温水プールを備えた病院やリハビリ・運動施設は全国で72カ所あるという。サイトでは、所在地や施設などの情報を紹介している。

藤木さんは国体への出場経験もある水泳選手だった。水中運動の研究を続けていた9年前、事故で半身不随になり、研究者から当事者に。「水の中だと転倒を恐れずに足が前に出せる。浮力の底力を自ら実感した」と藤木さんは言う。

水中運動を35年研究し、自らプールを作ってしまった人もいる。筑波大名誉教授(医学博士)でつくばアクアライフ研究所の野村武男所長。「水中運動で100歳まで元気」を合言葉に、自宅の隣に15メートルプールをつくり「デイサービスセンターVividつくば」を13年に開設した。要介護の高齢者30人が通っている。

2年前から週4日通う荒木信江さん(80)は「プールでみんなと一緒に運動するのが楽しい。最近は数字を覚えるのが好きになり、声が大きくなった」と喜ぶ。週1~2回のペースで4年間通う高野節子さん(82)は変形性脊椎症。「水中で手足を動かしているうちに1年ぐらいで腰と膝の痛みが和らぎ、つまずいて転ぶことがなくなった」と笑顔で話す。水の力は心の健康と自立も支えている。

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プールの確保 普及に不可欠

アクアライフ研究所の野村武男所長は「水中では筋肉がリラックスし、陸上と違う刺激を脳に与える。この刺激が認知症の予防や改善効果を生むと考えられる」と説明する。

水中運動の普及の課題はプールの確保だ。水夢王国の藤木太郎さんは学校プールの屋内化やゴミ焼却場の余熱を利用した安価な温水プールの建設を訴える。「リハビリ用小型プールは低コストで作れる」と話す。

1日には、プールに親しんでもらおうと、水夢王国のサイト開設20周年記念として、アーティスティックスイミング(旧シンクロナイズドスイミング)スペイン代表を招いたイベントを東京・辰巳で開いた。

経済面の課題もある。水中運動の先進国ドイツで研究経験がある野村所長は「ドイツでは水中運動と温浴は治療として医療保険が適用される。さらに環境整備が進めば、日本でも水中運動は身近なリハビリとして広がるだろう」と指摘する。

(大久保潤)

[日本経済新聞夕刊2018年5月9日付]