ほぼ完全防水となったのが2006年ドイツ大会の「+チームガイスト」だ。流線的な14枚のパネルを使い、それまでの32枚から一気に減らした。継ぎ目には熱接合の新技術を採用し、縫い目から水が染み込んでいたのをシャットアウトした。従来は手縫いの部分が周囲より硬いとの課題があったが、熱接合によってどこを蹴ってもほぼ均一のボールを実現。サッカー界に大きなインパクトを与えた。
ロシア大会はより飛びやすく
10年南アフリカ大会の「ジャブラニ」はパネルをさらに減らして8枚にし、より真球に近づけた。ピッチ上で滑りにくくするため、表面に細かな凹凸をつける工夫も。ただ、無回転だと揺れが大きく、本田圭佑選手の「ブレ球」が話題になった。14年ブラジル大会の「ブラズーカ」は同じ形の十字形パネル6枚でつくられ、ブレは改善された。
では、ロシア大会の「テルスター18」はどんなボールなのだろうか。形は複雑だが、パネル6枚は前大会と同じ。「さらに減るとの噂もあったが、今回はこの形が飛行安定性やコントロールのしやすさなどの点でベストと判断した」とアディダスジャパン・マーケティング事業本部の西脇大樹さんは説明する。
特徴を知ろうとサッカーボールに詳しい筑波大学体育系の浅井武教授を訪ねた。風洞実験したところ「前回のボールと同じく秒速20~25メートルの中速領域でよく伸びる」という。軽く蹴っても飛ぶので、攻撃はしやすいといえる。また「回転がかかるとブラズーカよりやや曲がりやすい。28メートルぐらいのフリーキックを蹴ったときボール半個分くらい違うかも」と分析。フリーキックの見せ場が増えそうだ。
未来のボールはどうなるのだろう。「技術革新にもよるので、パネルの増減は分からない。目指すのは選手がイメージした通りの軌跡で飛ぶボール」と西脇さんは語る。
テルスター18には近距離無線通信規格「NFC」に対応したICタグが埋め込まれ、スマートフォンとデータ通信が可能に。「ロシア大会では商品情報などが提供されるだけ」というが、近い将来、キック力やボールの速度が瞬時に分かるようなハイテクボールが生まれるかもしれない。
こうしたボールは一般にも販売され、試合に使われる公認球のほかジュニア用などもある。ボールの進化を体験してみたらどうだろう。
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ボールへの慣れ、試合を左右
第1回大会では国際サッカー連盟(FIFA)がボールの規定を定めておらず、複数のボールが使われた。
決勝に進出したウルグアイとアルゼンチンは、互いに自国製のボールを使うと譲らない。コイントスの結果、前半はアルゼンチン、後半はウルグアイ製を使うことになった。試合は前半リードされたウルグアイが自国製のボールを使った後半に逆転して、4―2で初代王者に輝いた。
ボールへの慣れは重要だ。Jリーグでは今季開幕からテルスター18を使っている。
(鉄村和之)
[NIKKEIプラス1 2018年5月5日付]