『君の名前で僕を呼んで』 繊細な感情 汚れなき恋
美少年と美青年のみずみずしい恋のドラマである。
美青年映画として日本でも女性に圧倒的人気があった『モーリス』(1987年)、カズオ・イシグロの小説が原作の『日の名残り』(93年)などの監督で知られるジェームズ・アイヴォリーが、米国の大ベストセラー小説を脚色してアカデミー賞の脚色賞を受賞。『ミラノ、愛に生きる』(2009年)のイタリア人ルカ・グァダニーノが監督し、成長期の少年の複雑な心情が語られる。
1983年、北イタリアの小さな町。米国の大学でギリシャ=ローマの美術史を研究し、翻訳家の妻が相続したヴィラで夏を過ごすパールマン教授は、毎年、研究を手伝う教え子を助手に迎えている。今年は大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)が来たが、教授夫妻の深い愛に包まれ、音楽の才能を輝かせる17歳の息子エリオ(ティモシー・シャラメ)は、素っ気ない態度の彼に反感を抱いた。
でも、それは長旅の疲れが出たせいか、エリオより少し年上のオリヴァーが慎重だっただけなのかもしれない。繊細な感情の動きがドラマを汚れのない恋へと導いていく。
互いの想(おも)いを打ち明けて身も心も求め合うシーンの心揺さぶられる美しさ。アメリカ映画界に久々に出現した本格美少年ティモシーに見とれ、美丈夫アーミー・ハマーにうっとり。「君の名前で僕を呼んで」とオリヴァーが誘えば、「到着した日に着ていたシャツをくれない?」とエリオが子犬のように甘える。
時が過ぎ、帰国するオリヴァーを見送って悲しむエリオに父は言う。「お前たちは美しい友情を得た。特別な絆だ。かつての私はそれを逃したが羨ましい」
息子の同性愛を青春の贈り物として受け入れ、エリオの後ろめたさを拭い去る父。これこそが父親の果たすべき役割なのだろう。2時間12分。
★★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2018年4月27日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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