ラジオ体操や健康グッズ ゲームセンター様変わり
かつてツッパリ少年のたまり場だったゲームセンター。「暗い、怖い」といったイメージを払拭し、高齢者や家族が絆を深める社交の場として、人気を回復しつつある。
ショッピングセンター内にあるゲームセンター、タイトーステーションパールシティ稲沢店(愛知県稲沢市)。毎日午後3時になると、スタッフの声掛けとともに「ラジオ体操第1」が流れる。気持ちよさそうに手足を曲げ伸ばしするのは、メダルゲームを楽しんでいたシニアたち。10分間ほど体操してリフレッシュしてから、再びゲームや世間話に戻っていった。
店内には老眼鏡や血圧計、ぶら下がり健康器や肩ツボ押しが置いてある。膝掛けや無料のお茶もある。ゲームが認知症予防に役立つと聞いてやってくるシニアで連日にぎわう。メダルを投入してゲーム機内のメダルを落として楽しむ「プッシャーゲーム」が特に人気で、週末に孫と一緒に遊ぶ姿も目立つという。
タイトーの田村雅寿オペレーション本部長は「客同士で花見に出かけたり『あの人最近来ないね』などと気遣い合ったり。高齢者のコミュニティーができている」と語る。
ゲームセンターは戦後、全国の百貨店の屋上に相次ぎ登場した。1978年にタイトーの「スペースインベーダー」が大ヒットしたのを機に「インベーダーハウス」が各地に乱立。24時間営業で入場年齢の制限がなく、少年非行の温床ともいわれた。
「明るいゲーセン」への第一歩は85年の風俗営業法改定だ。営業時間が午前0時までとなり、夕方以降の子供の入場を制限。「不良のたまり場」のイメージが薄れ、クレーンゲームなどグループで楽しむゲームが増えていった。
2016年6月には改正風営法が施行され、入店規制が緩和。16歳未満の子供は午後6時以降は入れなかったが、保護者同伴なら原則午後10時までOKになった。ネットゲームに押され市場は縮小傾向だったが、規制緩和を受け、社交場としてのゲーセンを見直す動きが広がっている。
17年10月オープンのタイトーステーション溝の口店(川崎市)は、3世代に来店してもらえる店づくりがコンセプトだ。全館禁煙にし、1階は子供、2階はシニア、3階は若者や父親層に人気のゲームを配置した。イオン系のゲーム施設運営会社、イオンファンタジーもシニアに人気のメダルゲームを充実させ、買い物のついでに3世代で立ち寄る家族を引き付けている。
カプコンは50歳以上を対象にプレミアム会員制度を設け、メダル貸出量の増量サービスを実施。店舗スタッフにおもてなしの心や介助技術を身につけた民間資格「サービス介助士」の取得を促す。既に27人が資格を取り、各店舗に配置している。ゲームの遊び方を教えるシニアツアーもこれまで2000人以上が参加した。店舗運営チームの牛尼伴寛さんは「シニア世代がかなり増えた実感がある」と力を込める。
新たな「社交場」へと脱皮しつつあるゲームセンター。最近人気の仮想現実(VR)ゲームは「遊び方がシンプルで誰でもすぐに楽しめる」(バンダイナムコアミューズメントの岩屋口治夫取締役)。東京・新宿にある同社の施設では、地上200メートル、幅30センチメートルの板の上を歩く設定の「高所恐怖SHOW」を70代の男性が体験していたという。
実際に急滑降体験機「スキーロデオ」を試してみた。ヘッドホンとVRゴーグルを付け、スキー板状のセンサーパネルに乗って山頂からスタート。操作は簡単だが、雪面を急降下する臨場感は怖い。
宮城県の店舗では、VR機を設置した日の最初の客が孫に頼まれて来た高齢女性だった。親子3世代の来店も多いという。VR機もシニアの間で着実に浸透しつつある。
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電子マネーで脱100円玉
ゲームセンターにとって悩みの種が料金だ。インベーダーゲームが大流行した40年前も今も、1回100円が基本。物価変動と関係なく、運営者側の負担は増していた。
100円玉ビジネスモデルからの脱却に向け、各社が進めているのが電子マネーの導入だ。主要なカードがゲーム機にかざすだけで使え、施設内で入金もできる。
カードごとにポイントをためられ、タイムサービスとして昼間の閑散時に10%割引する施設も出てきた。両替で席を立つ必要がなく、ゲームを続けやすくなる。ワンコインにこだわる必要がなくなり、100円固定だったゲーム料金にも幅が出てきそうだ。
(竹沢正英)
[NIKKEIプラス1 2018年4月28日付]
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