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食感プリッ 広島・三原のやっさタコ

2018/4/26付 日本経済新聞 夕刊

生きたタコをその場でさばいた「天吉」の「瀬戸内のたこコース」

 「タコで有名な明石(兵庫県)であった食べ比べ大会で約8割の人が『こっちのがおいしい』と答えたのがワシらのタコじゃったよ」。三原市漁協(広島県三原市)の浜松照行組合長(69)は笑いながら胸を張る。三原市のブランド「三原やっさタコ」は食べれば分かる納得の一品だ。

 瀬戸内海で有数の多島美を誇る三原沖には岩場が多く、エビやカニなどタコが好む餌が集まる。潮の流れも速いため、タコは流されないように岩場にしっかり足を踏ん張る。このため「三原のタコは明石のに比べて足が短く、太い」(浜松組合長)。これがプリッと引き締まった食感を生み出す一因のようだ。

 漁協はこれを「三原やっさタコ」と命名。現在、市内で30を超す店が提供している。「やっさ」は三原で8月に行われる祭り。16世紀、小早川隆景が築いた城を人々が踊って祝ったことに由来する。

「蔵」の森重さんが考案したタコ酒は香ばしく、口当たりもまろやか

 内外からタコ好きが集まる店が1980年開業の蔵だ。当初は瀬戸内の小魚主体だったが、店主の森重光裕さん(70)は「生き残るには他店にないもので勝負すべきだ」と考えた。目を付けたのが通年仕入れられるタコだ。

 甘く歯応えのあるタコを見つける選別眼も身につけた。足をたたくと固くなる。頭の皮がブヨブヨしていない。これらがおいしいタコの条件だ。商品開発にも余念がない。フグひれ酒を参考に作ったタコ酒は人気商品。乾燥したタコを高温で瞬間圧縮したタコせんべいもクセになる。

いけすから出したばかりのタコを慣れた手つきでさばく「天吉」の田坂さん

 コース料理を注文すると生きたタコをさばいてくれるのが天吉だ。自分の足を食べるタコは、足を切られても平然と動き回っている。足も同様にウネウネ、ニョロニョロ。それを田坂将美さん(73)が手際よくさばいていく。

 さばきたての吸盤を頂く。まさに舌に吸い付いてくる。広島で「作るところも見て味わう料理」はお好み焼きが有名だが、天吉のタコも同じ醍醐味が味わえる。「いつも生きたタコがあるわけではないので要予約」(田坂さん)だが、一度行く価値はある。

 「広島名物のお好み焼きと地元のタコを一緒に味わいたい」と、つぼみの中藤伊津志さん(64)が作ったのが「びんご焼き」。蒸しタコでなく、生タコにこだわった。焼くと水が出る、ゆでると固くなるなど試行錯誤の連続だったが、そのかいあってたどり着いた今の味と歯応えには熱心なファンも多い。

<マメ知識>漁は江戸から世襲制
 三原のタコ漁は江戸時代から代々世襲制で引き継がれている。主な漁法は伝統的なタコつぼ漁。長さ100メートルのロープに5キログラムのつぼが約100個付いている。体を傷付けず、きれいなタコを水揚げできる。
 タコには一定域に定住する「地付き群」と大移動する「渡り群」がいるとされる。広島大学大学院の牟田圭司さんが昨年、三原で捕れたタコに発振器を付けて追跡調査した結果、「三原やっさタコは確かに三原沖で生活しているタコだった。三原沖の環境を好んでいることが分かった」という。

(福山支局長 増渕稔)

[日本経済新聞夕刊2018年4月26日付]

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