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『女は二度決断する』 理不尽許せぬ妻の行動

2018/4/13付 日本経済新聞 夕刊

 ドイツのハンブルクでトルコ系の移民と結婚、息子にも恵まれて親子3人幸せに暮らすドイツ人女性のカティヤ(ダイアン・クルーガー)は、爆弾によって夫と息子を奪われた。犯人の見当はついた。夫のオフィスの前に新品の自転車を止め、鍵もかけずにそそくさと立ち去ったあの女だ。

東京・有楽町のヒューマントラスト シネマ有楽町ほかで公開(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production,corazon international GmbH & Co. KG,Warner Bros. Entertainment GmbH

 監督のファティ・アキンはトルコ系移民を両親にハンブルクで生まれ、世界三大映画祭と言われるベルリン、カンヌ、ヴェネチアの国際映画祭で受賞してきた気鋭の映画作家。ヒロイン役クルーガーは、ハリウッドで売り出し、これが初のドイツ語映画になるドイツ人。本作でカンヌ映画祭の女優賞を受賞した。

 映画は2000年から07年の間にドイツで実際に起きたネオナチ・グループによる連続テロ事件「NSU(国家社会主義地下組織)事件」に想を得て生まれた。

 警察は移民同士の争いを疑い、麻薬使用の過去があるカティヤの証言から連想される「ネオナチの仕業」は無視。それがNSU事件の解決に7年もの歳月を要した原因のようだが「ネオナチ」と聞いただけで、「黙っていろ」と言う刑事もいるドイツ社会に対する不信は大きい。

 それでも犯人が逮捕され、裁判になれば無罪の判決。犯人に罪を償わせる、と下した決断を裏切られたカティヤは2度目の決断を下す。

 被害者が悪人扱いされ、犯人はギリシャにもいる仲間の偽証で無罪放免を楽しむ。そんな理不尽が許せないカティヤの決断と行動をどう考えるか? 映画のだす結論は衝撃的だ。

 夫と幼い息子を奪われた女の気持ちなど考えもしない警察、司法の非情。その一方で描かれる家族の絆が熱いトルコ人と、ヒトラー崇拝の息子を冷静に批判するドイツ人の父。移民と共に暮らすドイツの現状の複雑さが目に見えるようだ。1時間46分。

★★★★

(映画評論家 渡辺祥子)

[日本経済新聞夕刊2018年4月13日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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