煮て焼いてうんめぇ 千葉・富津のアナゴ「はかりめ」
「うんめぇ穴子は富津はかりめ」。海の幸に恵まれた千葉県。東京湾に突き出た岬を擁する富津市の名物はアナゴだ。「はかりめ」はアナゴの別称。体側に等間隔に白い点が並ぶ姿が、市場などで使われた棒はかりに似ていることから、こう呼ばれるようになったという。
富津では20年ほど前から地域振興が課題となり、商工会などで目玉を検討してきた。寿司・活魚料理いそねの経営者で市商工会サービス業部会長の丸芳朗さん(66)によると「富津大佐和地区のアナゴはブランド水産物としてもともと評価が高かった。いろいろ候補はあったが、やはりアナゴでいこうと決まった」
とはいえ、アナゴ料理は全国各地にある。はかりめは富津独自の呼び方ではないものの「なんだろう、と関心を持ってもらうことが大事」(丸さん)と商標登録。地元の言葉で「うまい」を意味する「うんめぇ」もからめた冒頭の合言葉をつくり、特産として「再デビュー」させた。
いそねではしょうゆなどでこってり煮て、のりを敷いたごはんにのせる。バーナーであぶり、煮詰めたたれで仕上げると香ばしさが引き立つ「はかりめ丼」の完成だ。塩やレモン汁などで味付けした白焼き丼と両方味わえる「二色丼」、薬味と特製だしでお茶漬け風に食べる「ひつまぶし」などレパートリーは広い。
ひろ寿司を営む小倉博人さん(53)がこだわるのは「霜降り」と呼ぶ下処理。さばいたアナゴを水で洗ってから、熱湯で湯がく。生臭さを消し、ぬめりをとる効果がある。ここの「はかりめ丼」は卵焼きと千切りにしたキュウリを添える。「柔らかいアナゴにキュウリのさくさくした食感がよく合う」と小倉さん。一緒に食べると、さっぱりした風味で食が進む。
大定のレシピも独特だ。試行錯誤でたどりついた手法は秘中の秘だが、三代目店主の大嵩修司さん(48)は「煮るのにしょうゆは使わない。たれは別につくって、最後に味をつける」と解説してくれた。塩分を避けることで、焼き上げたときの「ふかふか感」が増すという。たれの甘さも控えめで、アナゴ本来の味が伝わってきた。
焼きアナゴ丼、白焼き、天ぷら、刺し身などアナゴのすべてを堪能できる「穴子づくし膳」は、3尾半を使う豪華さだ。
同じアナゴ料理でも調理の仕方や味付けは実に多彩だ。市商工会の松本晃一さん(47)は「店によって個性がある。それぞれの味を堪能してほしい」と話していた。
低カロリー、高たんぱくで栄養価の高いアナゴ。通年食べられるが、脂がのる旬は梅雨時の6、7月。富津ではこの時期「はかりめフェア」を開き、参加店が腕を競う。水揚げした直後のアナゴはエサをたくさん食べてふくれている。水槽などで3、4日絶食させ、不純物をなくしてから調理するのがおいしさを引き出すコツだそうだ。
最近はアナゴも水揚げ量が減っているという。煮たあとに冷凍しておけば味が落ちることはないが、生きの良さへのこだわりは、どの店の人も皆同じだった。
(千葉支局長 池内新太郎)
[日本経済新聞夕刊2018年4月12日付]
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