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「なぜ勉強しないとダメなの」 子ども向け道徳本続々

2018/4/10付 日本経済新聞 夕刊

ワークショップに参加する小学生と保護者ら(東京都新宿区のポプラ社)

「なぜ勉強しなくちゃいけないの?」「アイドルに夢中になるのはムダ?」など答えのない問いにどう向き合うか。教科化を機に「道徳」を扱った子ども向けの本の刊行が相次いでいる。

先月末、東京・新宿のポプラ社で絵本「答えのない道徳の問題 どう解く?」(文・山崎博司、絵・木村洋、二澤平治仁)の刊行記念ワークショップが開かれた。「どうしてお母さんは、ボクの嫌いな勉強をおしつけてくるんだろう?」と書かれたページを開き、小学生と保護者、著者と教育学者らが5つのグループに分かれて話し合った。

■教科化見据える

「お母さんが恥ずかしいのかなあ……」「良い会社に就職するためなんじゃない?」。子どもたちが意見を述べると「普段は聞けない話が引き出せた」と母親たちはうれしそうだった。

著者3人は広告会社で働く30~40代のクリエーターで、いずれも4歳の子どもを持つ。川崎市中1男子生徒殺害事件が起きた3年前からいじめや自殺など「道徳」が扱う問題についてよく話すようになり、「子どもたちが今の時代をたくましく生きていけるよう、考える力を育む本」(山崎氏)を作りたいと思ったという。

「道徳」を冠した本が相次ぎ刊行される背景の一つには「道徳の教科化」がある。今春から小学校、来春からは中学校で、他の教科と同じように検定を受けた教科書が使われる。文部科学省によると「考え、議論する道徳」を目指すという。

ただ、学校の授業では型にはめた議論に終始したり、正解にたどりつかせるための話し合いになったりするのではないかとの懸念もある。山崎氏は「一つの答えに誘導したくないし、答えがでなくても構わない」と強調。「どうして好きな女の人どうしは、結婚しないんだろう?」など現代的な問いを含め13のテーマに6~8個の意見を紹介する。著名人の意見も併記した。

先月刊行の「こどものための道徳」(ビジネス社)は「生き方編」と「学び方編」があり、齋藤孝明治大教授が4人の小学生と対話する体裁をとった。「道徳」とどう向き合ったらよいか悩む保護者も多く、「家庭で親と子が実際に議論する際の参考にしてほしい」と同社の編集担当者は狙いを説明。「アイドルに夢中になるって、おかしなことなの?」など子どもたちに身近な題材も扱った。

■タブーにも挑戦

小学5年のケイは水着姿の写真を送るように頼まれて悩む(「みんなで道トーク!(1)学校編」)

教科書や授業では扱いづらい問いも積極的に取り上げたのが、昨年刊行された「みんなで道トーク!」(河出書房新社、全3巻)だ。小5の子どもが日常で出合う「モヤモヤ」を漫画で説明。酔っ払いの父親を尊敬しないといけないのか悩む男子や、好きな中学生から水着姿の写真を送ってほしいと言われて困惑する女子など現実の問題を反映した設定を練り上げた。

監修した藤川大祐千葉大教授は「建前では解けない問題、真剣に考えざるを得ない設定を考え抜き、タブーにも挑んだ」と話す。例えば「地域と自分、どっちが大事?」という問いには「地域への恩を返したいと思うことは大切、しかし、そのかたちは人それぞれでよい」との解説を付す。

「グループが大事? 自分が大事?」という項目では友人の恋愛話に興味が持てず悩むトモコに、我慢して話を合わせるか、その場を去るか、2つの選択肢を示し、良い点、悪い点を並べた。トモコは話を合わせたがモヤモヤは消えない。「それが現実。どっちにいっても解決しない」と藤川教授。解説ページではトモコの悩みは「同調圧力」というものでいじめの原因になりうる、と説明する。

世の中には答えの出ない問題がある。それらに取り組む力を育んでほしいというのが著者たちに共通する思いだ。「多数意見を知るだけでは生きていけない。悩みながら成長すればいいんだよ、と子どもたちには伝えたい」と藤川氏は力説する。

(佐々木宇蘭)

[日本経済新聞夕刊2018年4月10日付]

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