人工関節手術、ナビで正確に 骨の切断方向をガイド
術後患者への助言にも活用
膝関節や股関節の変形や痛みを取るため、人工関節に置き換える手術が広く行われている。コンピューターの力を借りることで骨を正確に切断したり、人工関節を正しく取り付けたりできる「ナビゲーション手術」を実施する病院が増えている。人工関節手術の確実性が高まることで、患者の満足度向上につながるという。
この手術では、加齢などに伴う変形性関節症や関節リウマチなどで悪くなった関節部分を切除して、金属やセラミックスの人工関節インプラントを取り付ける。リハビリテーションや薬物による保存的療法といった他の治療法と比べて、痛みを取る効果が大きいのが特徴で、高齢者の場合も歩行などの運動機能が大きく改善する。
人工関節を活用するのは主として膝関節、股関節、肘関節、肩関節など。このうち膝関節と股関節で「ナビゲーション」とよばれるコンピューター支援の手術が普及し始めている。
人工関節のナビゲーション手術を年間400件近く手がける神戸海星病院(神戸市灘区)の柴沼均・副院長に、手術室で膝関節のナビゲーション手術の様子を模型を使って再現してもらった。
ヒトの膝は、すねの骨の脛骨(けいこつ)の上に大腿骨(太ももの骨)が乗り、膝関節は蝶番(ちょうつがい)のように、大腿骨と脛骨の間の曲げ伸ばしを可能にしている。ナビゲーション手術ではまず大腿骨と脛骨に1カ所ずつ、骨の位置情報を把握するためのトラッカーと呼ばれる器具を取り付ける。
ベッドの傍らに置いたナビゲーション装置の赤外線カメラでトラッカーを読み取り、3次元の位置データを装置に取り込む。装置には骨の形状についての過去の患者のデータが多数登録されており、ここから患者に合うものを引き出し画面に表示する。こうして患者の骨の形状や位置、動き方を再現して医師が参照することができる。
人工関節を取り付けるため、関節部分をはさむ大腿骨と脛骨の端を切断する。「この切断面の角度が最も重要。これがずれると人工関節の取り付け角度が狂ってしまう」(柴沼副院長)
ナビゲーション手術では、切断方向をガイドする装置を骨に取り付け、その位置情報をナビゲーション装置が読み取って、切断面の方向が正確かどうかを表示する。医師はそれを確かめた上で骨を切断する。
通常の人工関節の手術では習熟した医師が「目測」で判断しながら骨を切断している。ナビゲーション装置を使うことで「経験の浅い医師でも、ベテラン医師並みかそれ以上の正確さで作業ができる」(柴沼副院長)。計画通りに切断できたかどうかも確認できる。
人工股関節の場合もナビゲーション手術では、周辺の骨の位置情報を装置に読み込ませた後、おわん状のインプラントを取り付ける部分の骨や軟骨を削る作業などを、装置で確認しながら正確に進めることができる。
人工関節の手術では、患者の負担を減らすため切開部分をできるだけ小さくすることが求められている。この場合、手術中の内部の様子が見えにくいため、ナビゲーション手術は有利になる。
患者は手術後、関節に負担をかける座りかたを避けたり、無理な力をかけて関節を一定以上曲げたりしないよう注意する。ナビゲーションの技術を使えば、手術後の関節の動き方をシミュレーションすることもでき、患者へのアドバイスに活用できるという。
日本人工関節学会によると人工股関節と人工膝関節の手術はそれぞれ直近で年間約8万8000件実施された。このうちナビゲーション手術は膝関節で約9%、股関節で約8%を占める。人工関節の専門外来を設けて手術を手がけるところで導入例が増えている。
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海外では手術ロボも登場
人工関節のナビゲーション手術は、欧州や米国など海外で先行して普及している。国内で使われるナビゲーション装置はほぼ外国製だ。海外ではこの手術に続き、ロボットを使う人工関節の手術の実施例も増えている。
ナビゲーション手術では、コンピューターが表示する情報を参考にしながら自ら執刀する。ロボット手術では、ロボットアームに骨を削る器具などを取り付けて半ば自動的に作業をする。骨を削りすぎないように、決まった場所まで削って自動的に停止するなど、作業を安全に行うことができるという。
日本では2017年10月、人工股関節の手術用ロボットが薬事承認された。整形外科分野では初めての手術ロボット。日本でもナビゲーション手術だけでなくロボット手術が普及するかどうか注目される。
(編集委員 吉川和輝)
[日本経済新聞夕刊2018年4月4日付]
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