『ウィンストン・チャーチル』 宰相の人間臭い魅力
英国首相ウィンストン・チャーチルはどんな人物だったのか? 繰り返した失策で政界きっての嫌われ者になりながら首相に選ばれた男の第2次大戦下のわずか4週間ほど、とはいえ英国の命運を決した激動の時(原題は「最も暗い時」)を、若い女性秘書の視点を軸にしながら、『プライドと偏見』のジョー・ライト監督はリアルに描き出す。
第2次大戦初期の1940年。30万人を超える英仏連合軍兵士は、ナチス・ドイツ軍にダンケルクの海岸へと追いつめられていた。
こんな時期に首相に指名されたチャーチル(ゲイリー・オールドマン)は、ムッソリーニを仲介にヒトラーと和平交渉したい閣僚の甘い考えに断固反対。孤立しながらも深夜密(ひそ)かに訪ねてきた国王、ジョージ六世(ベン・メンデルソーン)の信頼と友情に励まされ、乗り方もろくに知らない地下鉄に乗ってロンドン市民から聞いた「和平はない。最後まで戦う」の言葉に自信を得た。自分には国王と市民がついている、という心の支えが生まれたはず。
そんな首相の傍らで働く新人秘書(リリー・ジェームズ)と、しっかり者の彼の妻(クリスティン・スコット・トーマス)。2人の女性の存在が、傲慢で自信家の宰相の人間臭い魅力を際立たせ、英国らしいユーモアを生みだして楽しい。
秘書の疑問を解くためなら、女子は立ち入り禁止の法を破っても、戦況の危機を教える首相。率直で強引、行動力を持つ人物であることが見えて親しみが増したが、こういうリーダーはあくまでも戦時下の非常時用、平和な時代にはどうなるのだろうとふと思った。
今年の第90回アカデミー賞で、辻一弘が日本人初のメーキャップ&ヘアスタイリング賞を受賞。この驚異の特殊メークでチャーチルに変貌したゲイリー・オールドマンはアカデミー賞主演男優賞を受賞した。2時間5分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2018年3月30日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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