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『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』 闘う新聞

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NIKKEI STYLE

米国の歴代政権が隠してきたベトナム戦争の実情を記す機密文書の報道を巡る政府と新聞の闘いを描く。スクープしたニューヨーク・タイムズが異例の差し止め命令を受ける中、入手した文書の公表に踏み切ったワシントン・ポストに焦点を当て、新聞の使命を問う。

1971年6月、ワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は苛立(いらだ)っていた。タイムズのエース記者が最近書いていない。何かを追っている。なのに社主キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)はニクソン政権の瑣末(さまつ)な要求を伝える。案の定、スクープが出る。

夫の死に伴い専業主婦から社主になったグラハムは経営陣に軽んじられている。株式公開を控えるが、銀行への説明は苦手だ。そこにこの非常事態。友人のマクナマラ元国防長官には「ニクソンは悪質だ。新聞を潰すぞ」と警告される。

ニクソンは国の安全保障を脅かすとしてタイムズの差し止め命令を裁判所に要求。一方、記者の奮闘で文書を入手したブラッドリーは即座に記事化を命じる。タイムズが3カ月かけた分析を、10時間でやるのだ。

役員や法律顧問は止める。銀行が引けば株式公開は潰れる。法廷侮辱罪に問われれば投獄だ。だがブラッドリーは「報道の自由を守るのは報道しかない」とひるまない。最後の決断はグラハムに委ねられる。

報道の自由は合衆国憲法修正第1条が定める米国の民主主義の礎だ。報道機関が仕えるべきは国民であって、統治者ではない。「完璧でなくとも最高の記事を目指し続ける」とグラハム。

そのために働くのは記者だけではない。制作、印刷、発送など新聞社で働く人々の姿をスティーブン・スピルバーグ監督は丁寧に撮る。米国のみならず世界の強権的な指導者が報道機関を名指しで攻撃する今、新聞人の倫理が再び問われている。1時間56分。

★★★★

(編集委員 古賀重樹)

[日本経済新聞夕刊2018年3月30日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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