新潟のイタメシ 変わり焼きそば、また食べたくなる味
新潟県には色とりどりの「変わり焼きそば」がある。その原点は半世紀以上も前に生まれた県民食の「イタリアン」だ。焼きそばの上に、なぜかミートソースが載っている。上中下越の3地域のうち下越はみかづき(新潟市)が、中越はフレンド(長岡市)が専門店を展開している。残る上越は黒白赤のご当地焼きそばで観光客を引き付ける。
「イタリアンを食べようと誘われて、店に行ったら焼きそばが出てきた」。県内でよく聞くジョークの一つだ。
イタリアンは不思議な食べ物だ。太めの中華麺をソースでいため、オレンジ色がかったミートソースを載せてフォークで食べる。これが1960年にメニューを考案したみかづき流の食べ方だ。一方のフレンドでは、イタリアンとギョーザのセットを箸で食べるのが通(つう)とされる。
もともと新潟市で喫茶店を営んでいた三日月晴三さん(91)が軽食メニューとして売り出した。まだ西洋料理が珍しかったころ。青のりの代わりに色鮮やかなミートソースをかければ、地味な焼きそばがおしゃれなスパゲティ風になると考えた。そこから名前は「イタリアン」。フレンドの経営者とは旧知の間柄で、商圏を分けて競い合った。
「飛び切りうまくはないが、また食べたくなる味」。みかづきに勤めて40年、営業部長の小林厚志さん(63)はこう話す。イタリアンが県民食になったのは小中学校の行事で屋台や模擬店のメニューとして定着したから。「小さい頃から、あの味が焼きそばの定番だった」と袋麺のイタリアンを販売する小国製麺(胎内市)の常務、斎藤公美さん(43)は笑う。
上越で変わり焼きそばが登場したのは2010年以降。糸魚川市のブラック、上越市のホワイト、妙高市のレッド。新たな観光資源に育てようと三国同盟ならぬ「三色同麺」を組んで、ご当地B級グルメのPRに乗り出した。
先陣を切ったのは糸魚川ブラック。中華料理の月徳飯店を経営する月岡浩徳さん(52)が地元で取れるイカを丸ごと使ったイカ墨焼きそばを考案した。「ラーメンだとスープの仕込みが大変だが、焼きそばならどの店でも作れる。地域ぐるみで名物を育てるなら焼きそばだ」と考えた。市内の認定店は20軒を超える。
妙高高原の赤倉温泉で定食のみよしやを営む田子進也さん(43)はパプリカやトマトで真っ赤なソースを作り、地元の米粉が入った中華麺で「辛くないレッド焼きそば」を仕立てた。野菜のうま味を利かせた塩味が特徴だ。進化する新潟の変わり焼きそば。あなたも食べに来ませんか。
新潟の食べ物といえば、誰もがコメを思い浮かべるだろうが、県民は麺類に対しても強いこだわりを持っている。米粉入りの焼きそばはもちろん、ラーメンでは新潟市のあっさり醤油(しょうゆ)と濃厚味噌、燕三条地域の背脂に三条市のカレー、長岡市のショウガ醤油の「五大ラーメン」が有名だ。麺のつなぎに海藻のフノリを使ってコシを出し、木箱に盛った「へぎそば」も県を代表する食の一つ。農作物や海産物が豊富な新潟には、昔から様々な食材を楽しむ文化が根付いている。
(新潟支局長 管野宏哉)
[日本経済新聞夕刊2018年3月29日付]
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