『リメンバー・ミー』 あふれる色彩 陽気な音楽
着想の良さと根底に流れる人間臭い温かみのあるアニメーション映画を作り続けるディズニー/ピクサーがここで描くのは、メキシコの祝日"死者の日"。日本の"お盆"に相当するこの日、死者の国にまぎれ込んだ少年ミゲルの大冒険を通して家族の絆の強さを語りかける。『トイ・ストーリー3』のリー・アンクリッチが原案を書き、監督した。
ミュージシャンになった先祖の失踪で、音楽を憎むあまり、稼業は靴作り、音楽は厳禁の一家に生まれた少年がミゲル。しかしミゲルは音楽に夢中だ。彼は先祖が伝説の大歌手デラクルスではないかと思い、死者の日に彼の墓所に忍び込んで遺品のギターに触れた瞬間、ガイコツだらけの"死者の国"に迷い込んだ。
そこは色彩が溢(あふ)れて夢のようだが、日の出までにこの世に戻らなければミゲルの身体は消えてしまう。彼が仲良くなったガイコツのヘクターにも、生きている家族に忘れられると死者の国からその存在が消える恐怖がつきまとう。だから「リメンバー・ミー」(忘れないで)。
ヘクターには親友の歌手デラクルスに欺かれ、総(すべ)てを奪われて妻にも愛想を尽かされた過去がある。そのために家族に捨てられ、忘れられかけている。
家に帰りたいミゲル、自分を忘れないでほしいヘクター。願いをかなえるために奮闘する2人を描くカラフルで繊細な映像と陽気な音楽にはメキシコ文化への愛着が溢れ出る。ここにある先祖への愛着と音楽への熱い思いはただ美しい。
今年のアカデミー賞の長編アニメーション賞の受賞作。主題歌賞を受賞した「リメンバー・ミー」は「レット・イット・ゴー」の作曲家ロペス夫妻の新曲。デラクルスの大ヒット曲の設定だが、ミゲルやヘクターも魅力的に歌い、日本語版もまた聞きものだ。1時間45分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2018年3月16日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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