触る・息ふきかける… 「参加型絵本」に子ども大興奮
「ボタンをおして」などの指示に従うと、次のページで何かが起きる。こうした「参加型絵本」が人気を集めている。本に触れる、ページをめくるといったアナログな行為が楽しいようだ。
「ボタンを 2かい おしてみて! いーち! にー!」
水玉模様のキャラクターの横に、大きな赤いボタンが描かれている。ボタンの絵を押し、ページをめくるとキャラクターが2人になり「うわ! ぼくが ふたり になっちゃった」。
発行17万部超え
昨年8月に刊行された「ぜったいに おしちゃダメ?」(ビル・コッター著、サンクチュアリ出版)は読み手が絵に触れたり、こすったりすることで物語が進行する。「子どもが笑う」と評判が広まり、発行部数は17万7000部にのぼる。200組超の親子モニターに読み聞かせをしてもらい、テンポよく読めるよう日本語訳を練ったという。
本に触る、手をたたく、息を吹きかけるなど、読み手の物理的な働きかけが物語に反映する絵本は「参加型絵本」と呼ばれる。世界的な草分けとされるのは、フランスで出版され、2010年にポプラ社から邦訳が出たエルヴェ・テュレ作「まるまるまるのほん」(谷川俊太郎訳)だ。「見たことのないアイデアに衝撃を受けた」と、同社児童編集第一部の高林淳一部長は、初めて原書を目にした印象を振り返る。
アナログが魅力
あるページには黄色の丸が3つ並び「ひだりの きいろいまるを ゆびで そうっと こする…」とある。次のページでは、こすられた丸が赤く変わる。「デジタル化が進む時代に、ページをめくるというアナログな行為の楽しさを感じられるのが魅力」(高林氏)。この本は英語や中国語などにも翻訳され、各国でベストセラーになっている。
日本でも類書が増えてきた。おばけが住む家を舞台にした「おばけとかくれんぼ」(くもん出版)もその一つ。1ページ目にドアのイラストがあり「コンコンって ノックしたら ページを めくってね」という文が添えられている。ページをめくると、水色のおばけが「ばぁ!」と登場する。
シリーズで4作あり「ふねに むかって いきを おもいきり ふきかけて!」「ほんを くるりっと たてに してみよう!」などの指示もある。作者の新井洋行氏は玩具のデザインも手がけており「この絵本は積み木やボールと同じ。これを使って親子で遊んでくれたらうれしい」と語る。
保育園などで年間250回の読み聞かせをしている音楽家・マジシャンの大友剛氏は、こうした絵本が売れる理由について「子どもの反応が良いからでしょう。こっちがびっくりするくらい興奮する」と話す。参加型絵本は「子ども自身が物語を動かして、主人公になれる。だから夢中になる」と感じている。朗読に自信がない大人でも、子どもの注意を引き付けやすい本でもある。
大友氏は絵本「ふしぎな ふしぎな まほうの木」(クリスティ・マシソン作、ひさかたチャイルド)の翻訳も手がけたが「『投げキッスをしてみて』を『好きって言ってみて』とするなど、日本の子どもがアクションを起こしやすい訳を心がけた」という。
これらの絵本を楽しむ写真や動画をSNSで発信する親は多く、口コミで広まりやすいことも人気に拍車をかけている。物語を味わう本とは少し違う「参加型絵本」は、親子のコミュニケーションツールとして地位を築きつつある。
(文化部 佐々木宇蘭)
[日本経済新聞夕刊2018年3月13日付]
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