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「売るための接客はしない」という伊丹さん

一歩踏み入れると、いれたてのコーヒーの香りが漂う。カウンターの奥にはテーブルと椅子。一見すると、カフェのような店内を見回せば、バッグやマグカップ、メモ帳など様々な生活雑貨が並ぶなか、オシャレなデザインの自転車が控えめながらも目を引く。

東京都渋谷区の外苑西通り沿い。「RATIO&C(レシオ・アンドシー)」はブリヂストンサイクルが運営するれっきとした"自転車屋"だ。

「自転車を売るためだけの店にはしたくなかった」と話すのは店長の伊丹大さん(38)。2015年11月にそれまであったショールームを全面改装し、新たに設けたRATIO&Cは随所に伊丹さんのこだわりがある。

自転車の販売店といえば、思い浮かぶのは「ママチャリ」に代表される日常使いの自転車が子供用から大人用までずらりとそろうイメージ。来店客の大半は買うことを目的に訪れる。このところの自転車ブームで増えた本格的なスポーツタイプを扱うショップは嗜好性が強く、気軽に立ち寄ることができる雰囲気ではない。

伊丹さんがRATIO&Cの店づくりで目標としたのは「誰もがもっと気軽に入ることができる自転車屋」だった。

まず考えたのは集客の呼び水となる若い女性を引き付けること。その必須アイテムとして、導入を決めたのはカフェだ。さらに女性の関心が高い生活雑貨を品ぞろえに加えた。「生活の中にある自転車」を印象付けるため、陳列も工夫。生活雑貨とともに店頭に飾る自転車は10台に限定し、売り場が雑多になることを抑えている。

扱う自転車は1台15万円からというなかなかの高級品。本体の色やハンドル、サドル、タイヤを好みで組み合わせれば、その数は数万通りに達する。まさに自分だけの1台を手に入れることができる仕組みだ。

だからこそ「売るための接客はしない」。来店客にいきなり声をかけるのはご法度。一通り店内を回った後、気に入った1台の前で立ち止まる。かがみ込んでパーツの細部まで気にかけるしぐさが出れば、声かけの絶好のタイミングだ。

接客では一方的に商品の説明をしない。まずは日常での自転車とのかかわりについて聞き出していく。通勤や通学で使うのか、休日に乗る程度なのか。けがや持病はないか。スポーツの経験はあるか。利用目的、自転車に乗る姿勢、快適と感じる乗り心地などは人それぞれ。そこまで聞き出せれば、予算を確認し、お薦めの自転車を提案していく。

文房具からバッグや書籍、マグカップまで多種多様な生活雑貨を仕入れるバイヤーの役割も担う伊丹さん。「値段にかかわらず、本当にいいと思ったものだけを集めている」という雑貨に実は共通項がある。それが「自転車」。例えば、バッグは背負って自転車に乗る際にちょうどいい小ぶりなサイズ。メモ帳は自転車での旅先で急な雨に降られても心配のない防水タイプという具合だ。

「自転車屋のイメージを変えたい」と意気込んだ開店から2年あまり。伊丹さんとの雑談とコーヒーを目当てに毎朝訪れる常連客もできるなど、客層は確実に広がっている。

(井口耕佑)

[日経MJ2018年3月12日付]

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