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『しあわせの絵の具/愛を描く人モード・ルイス』 時間が育てる夫婦の愛

2018/3/9付 日本経済新聞 夕刊

 愛らしくきれいな色があふれる絵を描き続け、苦しみを乗り越えて人生を幸せに染め上げたのがカナダのフォーク・アート画家モード・ルイス(1903~70年)だった。

東京・新宿の新宿ピカデリーほかで 公開中(C)2016 Small Shack Productions Inc./Painted House Films Inc./Parallel Films (Maudie) Ltd.

 英国のテレビを拠点に活動するアイルランド生まれの女性映画作家アシュリング・ウォルシュは、モードの半生を描きながらそこに長い時間が創る夫婦の愛と幸福を刻んでいく。

 カナダ東部ノバスコシア州の小さな港町。関節リウマチを抱えて暮らすのが『シェイプ・オブ・ウォーター』の声のない女性だったサリー・ホーキンスが演じるモード。絵を描くことで兄や叔母の冷たさに耐える彼女は自立を求め、一人の男が店の壁に貼った家政婦募集の広告を手に彼の家に押し掛け、住み込みで働かせてもらうことにした。

 町はずれの粗末な家で暮らす男エベレット(イーサン・ホーク)は魚の行商人。孤児院育ちで学もない彼は家事以外の時間は絵を描くことに使うモードに不満はないが、彼女は「絵の具を買うお金が欲しい」「寒いからあなたのベッドで寝たい」、と抜け目ない要求をして結婚する。無欲で多くは望まないモードの描く絵を愛し、5ドルで買ってくれるサンドラがいるおかげで、夫婦の世界はささやかな変化を見せ始めた。

 妻は有名人。それがなんだか不満で喧嘩(けんか)もする夫。とはいえ彼女の病状が悪化すれば、その手に抱かないまま養子に出されてしまった娘に会わせてやりたい。でも、会わなくていいの、と対面を望まないモードの心情にハッとさせられる。何も望まず、そっといまのままで、それこそがこの夫婦の生き方ではないか。

 粗末な家の室内の壁から外壁まで、絵を描き続けてモードは67年の生涯を終えた。長年連れ添ったことで生まれた夫の妻を思う気持ち。2人の愛は連れ添った時間が育てたものだ。1時間56分。

★★★★

(映画評論家 渡辺祥子)

[日本経済新聞夕刊2018年3月9日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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