海なし県のたんぱく源 栃木のサメ料理、味はさっぱり
映画「ジョーズ」では巨大なサメが人を襲うが、栃木県では人がサメを食べてきた。スーパーではマグロやサケと同じ冷蔵ケースに「モロ」「むきサメ」「モーカサメ」などの名でネズミザメの切り身が並び、学校給食でもよくフライにして出される。サメ料理は海なし県にとり貴重なたんぱく源となる家庭料理だが、「蔵の町」栃木市では飲食店のメニューの中に見かけることも多い。
なすび食堂は2010年のオープン以来、モロ料理を看板にしてきた。「地元では慣れ親しんだ食材だが観光客には珍しがられる」と店長の尾崎佳美さん(30)。家庭で一般的な煮付けも供するが、ご飯の上にキャベツを敷き詰めフライにしたモロを盛りつけるモロカツ丼定食や、モロフライをメインにしたとちぎ定食を注文する客が多いという。
モロ自身は白身魚のようにあっさりしているが、サクッとした衣をまとったフライは鶏肉のような味。自家製のタルタルソースを添えるとまろやかな風味が口に広がる。
板長の石海春彦さん(65)は「解凍する際の水気取りのために何度もキッチンペーパーを取り換え、揚げた後にすぐナイフを入れず味をなじませることで、サクッとした食感になる」という。モロ=サメと聞いた瞬間、拒否反応を示す観光客もいるが、小鉢に出すとたいてい食わず嫌いが直るそうだ。
江戸期に創業した旅館内の食事処(どころ)かな半で味わえるのは、モロのにら玉甘酢あんかけ。昼のコース料理、「江戸御膳」(要予約)のメインとして提供している。
栃木市は昔から商都として栄え小江戸とも称され、江戸期の料理本や文献をもとに再現したり郷土の特色をいかしたりする「とちぎ江戸料理」を街おこしに活用している。江戸御膳もその一つで、江戸期から食べられてきたモロに小麦粉をまぶして揚げ、地元特産のニラを卵でとじて甘酢あんをかけるレシピを10代目の女将、志鳥泰子さん(46)自らが考案した。宿泊予約時に頼めば旅館の夕食のひと品にもできるという。
西洋厨房をうたい創作料理が売りの路遊亭では、肉以外の料理の一つとして2年前にサメステーキをメニューに加えた。白絞め油でソテーして日本酒でフランベし、タマネギが効いた自家製ステーキソースで出される。和風とはひと味違う力強い味わい。オーナーの関口光路郎さん(45)は「400種類を超すカクテルなどバラエティー豊かな酒のつまみとして人気」と語る。
栃木県民は控えめで地味・堅実だといわれる。高たんぱく低脂肪であっさりさっぱりしたサメ料理がソウルフードとなるのも、そんな気質ゆえかもしれない。
宇都宮大学の飯郷雅之教授(53)によると、栃木県でサメが好んで食されるのは、体内に尿素を多く含んでいるためだという。時間がたつとアンモニアに変化して防腐剤の役割を果たすため、冷蔵技術が未発達の時代でも貴重な海の魚として流通していたという。モロなどと呼ばれるネズミザメのほか、栃木ではアブラツノザメをサガンボと呼んでやはり煮付けなどにして家庭で食べられている。ひれはフカヒレ、脊椎は医薬品、皮は革製品となるなど、余すところなく利用される貴重な資源だ。
(宇都宮支局長 花渕敏)
[日本経済新聞夕刊2018年3月8日付]
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