「少年ジャンプ」50年 読者と生んだわくわく感
日本一の発行部数を誇る少年誌「週刊少年ジャンプ」が創刊50周年を迎えた。これを記念した展覧会やドラマなどを入り口に、一時は600万部を超えた人気漫画誌の歴史を振り返る。
「読者に支えられて50周年を迎えることができた」。「週刊少年ジャンプ」(集英社)の中野博之編集長は感慨を語る。
同誌の第11代編集長のこの言葉は「ジャンプ」の歴史を物語っているともいえる。1968年に創刊されたジャンプは「週刊少年サンデー」(小学館、59年創刊)、「週刊少年マガジン」(講談社、59年創刊)よりも後発だ。追いつくための工夫の一つが「アンケート至上主義」だった。
中野編集長は「載せるか載せないかを決めるのは読者。読者が求めているものに応える仕組みを作り出した」と話す。編集部には毎週1万枚を超えるはがきが届き、その内容を編集部が細かく分析する。
新人作家を輩出
もう一つの工夫が「新人作家の登用」だ。創刊時は有名漫画家を確保できないための苦肉の策だったが、「編集者の経験値だけでは生み出せない漫画が登場する下地になった」(中野編集長)。70~80年代は「キン肉マン」のゆでたまご、「キャッツ●(ハートマーク)アイ」の北条司ら若い作家を輩出した。
キャラクターの人気も特徴だろう。「DRAGON BALL」の悟空や、「ONE PIECE」のルフィ、「NARUTO」のナルト――。中野編集長は「キャラが全てと言う編集者さえいる。ストーリーを知らなくても、キャラが知られているのはジャンプならでは」と話す。
19日からは人気キャラクターが一堂に会する「週刊少年ジャンプ展」が森アーツセンターギャラリー(東京・港)で開かれる(6月17日まで)。50年の歴史を3回に分けて紹介するもので、昨年に続き2回目の今回は、発行部数が653万部に達した90年代の黄金期に光をあてる。
「SLAM DUNK」「幽☆遊☆白書」「るろうに剣心」などヒット作が立て続いた時代を、原画や立体パネルなどで紹介する。集英社コンテンツ事業部の東秀人課長は「当時の部数には今のジャンプ、マガジン、サンデーの3誌を足しても届かない。展覧会であの頃の熱狂の裏側まで知ってもらいたい」と話す。
ドラマ「オー・マイ・ジャンプ!」(金曜深夜0時12分、テレビ東京系)も放送中だ。テレビ東京の深夜枠「ドラマ24」の50作目にあたることから、創刊50周年のジャンプとのコラボレーションが実現した。
主人公の月山浩史(伊藤淳史)はかつてジャンプを愛読し、ヒーローに憧れていたが、事なかれ主義の大人になってしまった。しかしこの雑誌を愛する秘密クラブに集まる人々との交流を通し、正義感を取り戻していく。コスプレをした登場人物や、ジャンプにまつわる知られざるエピソードがドラマを盛り上げる。
世界の才能も発掘
当初は実在の編集者と漫画家を描くつもりだったが、大幅に変更した。阿部真士プロデューサーは「ジャンプ編集部に『知られている話ばかりでつまらないですね』と言われたので思い切ってエンタメに振りました」と笑う。「題材は少年ジャンプだけど、ドラマでは大人が全力でバカをやっている。ジャンプの持つわくわく感が伝わればいい」
週刊少年ジャンプの現在の発行部数は200万部弱。ピーク時の3分の1以下だ。新しい才能の獲得のため、昨年、英語、韓国語など世界8言語でネットから応募できる「ジャンプ世界一マンガ賞」を創設した。中野編集長は「デジタル化でコンテンツの作り方や読まれ方が変化しているが、まだまだ伸びると信じている。世界の才能が集まるようにしたい」と意気込む。今夏には3回目の展覧会も開かれる。
(文化部 赤塚佳彦)
[日本経済新聞夕刊2018年3月5日付]
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