『15時17分、パリ行き』 運命の不思議と真実感

クリント・イーストウッド監督の最新作。2015年8月、アムステルダム発パリ行きの高速列車で銃撃による大量殺戮(さつりく)を開始しようとしたテロリストに、アメリカ人青年3人が立ち向かい、阻止した。その実話を映画にした。「アメリカン・スナイパー」(14年)、「ハドソン川の奇跡」(16年)につぐ実話の映画化であるが、今回は、なんと実話の本人たちに、自分の役で主演させるという、おどろきの手法をとっている。

さらに、映画の構成にもっとおどろく。テロ事件の実話の映画化、ということから予想・期待されるものをみごとに裏切るばかりでなく、映画というものの皮をむいて裏がえされたようなおどろきを味わう。

それを味わいたいかたはこの先は読まないで、すぐに映画館に行ってほしい。

映画はまず、大きな荷物を背負った1人の男が、駅にはいり、列車に乗りこむところを見せる。顔は見せない。いかにも怪しい奴という撮りかた。いきなり事件がはじまるのか……?

切りかわって、オープン・カーでヨーロッパの都会を走る、たのしそうな3人のアメリカ青年、スペンサー・ストーン、アレク・スカラトス、アンソニー・サドラー。みんな本人だ。

彼らも駅に行くのか。いや、まだまだ。3人はいかにして固い友情に結ばれたのか。よくいっしょに校長室によばれていたこども時代。戦闘ごっこもした。高校を出て、みんなバラバラになったが、連絡はとりあい、そしてはじめてのヨーロッパ旅行に来た……。

この間に、列車内でのテロリストの動きが、しばしばカット・インしてくる。

やがては活劇場面にいたるわけだが、映画の大半は普通のアメリカ人の生活と意見をえがくことについやされ、それが、人生の特異点に遭遇する運命というものの不思議さに真実感を裏打ちしている。1時間34分。

★★★★

(映画評論家 宇田川幸洋)

[日本経済新聞夕刊2018年3月2日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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