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性の多様性、実験作を評価 ベルリン国際映画祭

2018/2/27付 日本経済新聞 夕刊

第68回ベルリン国際映画祭はルーマニアのアディナ・ピンティリエ監督が金熊賞を獲得して25日に閉幕した。女性監督の活躍が目立った今回を、映画評論家の斎藤敦子氏が報告する。

今年は会期半ば過ぎるまで、今ひとつの作品ばかりで、不作の年とまで囁(ささや)かれていた。そんな雰囲気を破ったのが金熊賞の『タッチ・ミー・ノット』と審査員大賞の『マグ』という2本の女性監督の作品だ。

■肉体の解放描く

金熊賞の『タッチ・ミー・ノット』は、他人との接触を受け入れられない女性を主人公に、障害のある人のセックスやSMといった様々な性的嗜好を見せつつ、肉体を解放していく過程をドキュメンタリー風に描いた問題作。性的多様性がテーマだが、監督のアディナ・ピンティリエはルーマニアのブカレスト実験映画祭の芸術監督でもあり、“性”をまるでアートのように見せることには多少の抵抗も感じた。

二席の審査員大賞『マグ』は、ドイツ国境に近いポーランドの村に建築中の世界一高いキリスト像を背景に、建設現場で働いていた主人公が事故に遭い、顔の移植手術を受けたために、それまでの自分のアイデンティティを失ってしまうという物語。焦点をわざとぼかした映像と場違いなヘビメタの音楽で、混迷するポーランド社会を皮肉ったパンクなポーランド映画だった。監督のマウゴシュカ・シュモフスカは3年前に『君はひとりじゃない』で監督賞を受賞した新鋭。

パラグアイのマルセロ・マルティネッシの『女相続人』は、相続した財産を売りながら、ひっそり暮らしてきた老女チェラとチキータの目覚めの物語。負債を払いきれずにチキータが刑務所に入れられ、おかげで家に閉じこもって絵ばかり描いていたチェラが、初めて一人で外の世界に出て、自由の楽しさを知る。アルフレッド・バウアー賞とチェラを演じたアナ・ブルンが最優秀女優賞を受賞した。

賞は逸したが、アンナ・ゼーガースの小説を現代のフランスに移し、第2次大戦中の亡命者と現代の移民を重ねて描いたクリスティアン・ペツォールトの『トランジット』を面白く見た。

■愛犬探しの冒険劇

今年は日本映画がコンペにない寂しい年だったが、それを補ったのがオープニングを飾ったウェス・アンダーソンのストップモーション・アニメ『犬ヶ島』だ。20年後の日本を舞台に、犬たちが隔離されたゴミ廃棄場“犬ヶ島”に、行方不明になった愛犬を探しに出かけるアタリ少年の冒険を描く。ウェス・アンダーソンらしい独特の世界観と現代社会のカリカチュアが楽しく、監督賞を受賞した。

日本映画はコンペ以外で存在を示した。パノラマ部門に行定勲の『リバーズ・エッジ』と黒沢清の『予兆 散歩する侵略者』、フォーラム部門に想田和弘の観察映画第7弾『港町』、昨年のPFFアワードグランプリ受賞作清原惟の『わたしたちの家』、山中瑶子の『あみこ』、ジェネレーション部門に富名哲也『Blue Wind Blows』など。特にパノラマ部門のオープニングを飾った『リバーズ・エッジ』は行定の知名度もあって毎回満席の観客を集め、国際批評家連盟賞を受賞した。

また、クラシック部門でデジタル修復された小津安二郎の『東京暮色』がお披露目上映された他、フォーラム部門で国映のプロデューサーとして千本あまりのピンク映画を製作した佐藤啓子のトリビュートもあり、ベルリンらしい目配りの良さを感じた。あとはコンペで賞を獲(と)ってくれるような、活(い)きのいい日本映画の登場を待つばかりなのだが。

[日本経済新聞夕刊2018年2月27日付]

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