『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』 美の世界と性の闘争
かつてドン・シーゲル監督、クリント・イーストウッド主演で「白い肌の異常な夜」(1971年)として映画化されたトーマス・カリナンの小説を、ソフィア・コッポラが、監督・脚本・製作(共同)をかねて再映画化。昨年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した。原作も、この映画の公開に合わせて翻訳された。
1864年、南北戦争開戦から3年(終戦の前年)の南部ヴァージニア州。
森にかこまれた土地にポツンとある小さな女子寄宿学園。本来は閑静な土地だが、最近は北軍に攻めこまれ、戦場に近く、遠雷のように砲撃の音が聞こえる。
女ばかりで孤立したこの場所に、脚に重傷を負った敵兵がはいってきたことから、特殊なシチュエーションのドラマがはじまる。
ドン・シーゲル版もソフィア・コッポラ版も大すじは同じである。だが、同じ年に「ダーティハリー」を放つ、男性的なアクション監督として鳴らしたシーゲルと、「ガーリー」すなわち積極的な女の子らしさを処女作「ヴァージン・スーサイズ」(99年)以来の旗じるしとしてきたコッポラでは、おのずと視点もタッチもことなる。
この映画は、建築、インテリア、衣裳(いしょう)、女優の選択、等々、目にはいるものすべてに神経がゆきとどき、それを「グランド・マスター」(2013年)のフィリップ・ル・スールが、スタンダードに近い比率でフィルム撮影し、陰翳(いんえい)に富んだカラー画面にしあげている。完璧なクラシカル・エレガンス。主題曲のようにつかわれる「ロリーナ」も、ジョン・フォード映画などでおなじみの名曲。
その少女趣味的美の世界で、ニコール・キッドマン、キルスティン・ダンスト、エル・ファニングら7人の女とコリン・ファレルの、性の闘争が展開。真綿で首をしめられるようなサスペンスだ。1時間33分。
★★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2018年2月23日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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