『シェイプ・オブ・ウォーター』 粋を究めた怪獣映画
米政府の極秘宇宙開発研究所で働く声を失った清掃係がアマゾン奥地で捕獲された半魚人と恋に落ちる。
そんな奇想天外な設定の恋物語の背景になるのは米ソの宇宙開発競争たけなわの時代、1962年。『パンズ・ラビリンス』『パシフィック・リム』などファンタジー、怪獣好きで知られるメキシコ人監督ギレルモ・デル・トロの第74回ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞作。日本時間の3月5日発表のアカデミー賞でも13部門で候補にあがる。
宇宙進出に勝利するには怪獣(ダグ・ジョーンズ)の機能を利用すべし、と上層部に生体解剖を進言する研究所の保安要員(マイケル・シャノン)。それを知った夜勤の清掃係イライザ(サリー・ホーキンス)は、一緒に働く黒人のゼルダ(オクタビア・スペンサー)と隣室のゲイの画家(リチャード・ジェンキンス)に助けを求めた。「彼を助けなければ人間じゃない」
映画館の上に住み、ハリウッド・ミュージカルが大好きなイライザは、水槽の鎖につながれながら彼女に心を開く怪獣が、声の出ない自分のありのままを愛してくれる幸せに酔う。
冷たく澄んだ映像がさしだす冷酷非情な差別社会、強さを誇示する男。胸ときめく音楽や映画で夢を見る女。そんな60年代アメリカの向こうに透けて見えるのは、あの頃の強さを取り戻したい現代アメリカ社会。それでもイライザには異種間でも、言葉がなくても愛する気持ちは通じるという幸福な確信がある。
人間と怪獣が愛し合うときの赤いドレスがとろけるような美をしたたらせる。もはやこれは映像・照明・特殊撮影の粋を究めて作った怪獣映画であると同時に真のアートでもある。ここでゼルダが知る怪獣の性の秘密。イライザったら隅に置けない女、やるじゃない! 旧(ふる)いヒット曲が耳に心地よく恋心を運んでくる。2時間4分。
★★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2018年2月23日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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