介護家族、独りで悩まないで 「カフェ」で悩み相談
介護が必要な高齢者や在宅で治療を受ける患者が住み慣れた自宅で最期まで暮らせるように、介護する家族を支える動きが広がっている。長期間、昼夜世話をする家族は介護疲れしてしまうことも多い。外出や人付き合いも減り、悩みを抱え込むケースも。そうした悩みを飲食しながら共有したり、電話で相談を受けたりする場を提供することで、介護の負担を少しでも和らげようとしている。
千葉県柏市の穏やかな田園にある一軒家では在宅で介護する家族や介護を受けている高齢者などが訪れ、食事やコーヒーを口にしながら話に花を咲かせる。
この一軒家は介護(ケア)する人を意味する「ケアラー」を支えるケアラーズ&オレンジカフェみちくさ亭。運営するNPO法人ケアラーネットみちくさの理事長、布川佐登美さん(58)は認知症の母親を介護していた当時、「介護の知識がなかったうえ、誰にも悩みを話せず孤独だった」という。母親が残してくれた自宅を改築して2013年10月にカフェを開いた。
「介護家族が困っていること、やりたいことを形にしたい」。訪れた介護する家族との会話から企画などを考える。例えば「せっかくの旅も二人きりだと貸し切り風呂しか使えない」という悩みから、ボランティアや他の家族と行く温泉旅行を企画。参加した家族らに羽を伸ばしてもらった。
こうしたケアラーズカフェの普及活動をする「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」(東京・新宿)の牧野史子理事長は、一人で介護を負担する人が増えた背景として、未婚や兄弟がいないなど世帯の変化を指摘する。
アラジンなどの調査では介護が20年以上に及ぶなど長期間にわたる人もいる中、全体の8人に1人は介護に協力してくれる人がいなかった。介護者の3割弱は心の不調を感じており、5人に1人は孤立感もある。
「介護の負担が大きいと、仕事を辞めたり友人と疎遠になったりして、さらに社会から孤立する悪循環に陥る」という牧野理事長。「助けを求められる『駆け込み寺』を知っておくべきだ」と呼びかける。
同センターは介護者のための電話相談「心のオアシス」を続けており、悩みや不安を受け付ける。研修を受けたボランティアの相談員が対応する。牧野理事長は「疲弊した介護者は支援の手を求めに行く勇気や気力がなくなる。思いを受け止めて、次につなげる役割を果たしたい」と話す。
「地域で見守る体制が要介護者と家族を支えるために必要」と訴えるのは、ケアマネジャーの団体、日本介護支援専門員協会(東京・千代田)の七種秀樹副会長。
16年からケアマネジャーの研修のガイドラインに「家族支援」の項目が加わった。一日中介護に追われる家族もいるが、七種副会長は「介護から離れて休まないと、介護は続けられない。専門職は短い時間しか関われないので、家族が健康でいることが介護を続けるために重要」と指摘する。
例えば小規模多機能型居宅介護(小多機)は介護する家族の負担を軽くする目的でも高齢者の宿泊を受け入れたり、買い物などの外出に同行したりするなど柔軟に対応する。その一つ「ソラスト天神あやめ」(東京・江東)の及川浩子施設長は「異なるサービスでも同じ職員が対応するので安心してもらえる」と話す。
こうした介護する家族の休息は「レスパイト」と呼ばれる。七種副会長は「ケアマネジャーは介護保険のサービス以外ともつなぐことができる。介護に疲弊して追い詰められる前に、適切な制度やサービスを紹介できる専門職とつながってほしい」とアドバイスしている。
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訪問看護 人材育成が急務
訪問看護の現場は人手不足が続いており、在宅療養を支える人材育成が急務になっている。
日本看護協会は参加しやすい2日間の研修として「訪問看護入門プログラム」を作成。訪問看護の経験がない看護師の興味を高めるため各地で自由に利用できるようプログラムを提供している。
同協会の荒木暁子常任理事は「質の向上を図りながら、新卒者や育児中など幅広い世代が活躍できるように研修・教育体制の整備に取り組んでいる」という。
全国訪問看護事業協会(東京・新宿)は16年度から「訪問看護講師」の人材養成研修会を開催。それぞれの地域で訪問看護の推進や普及に関する研修を企画できる人材の育成を進めている。過去2回の研修会には240人の訪問看護ステーション関係者と都道府県職員が参加した。
上野桂子副会長は「その人らしい生活を送るために必要なケアを提供する訪問看護の知識を広め、どの地域でも質の高い看護を受けられるようにしたい」と話している。
(鈴木菜月)
[日本経済新聞夕刊2018年2月21日付]
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