台ふきん 布製よりもセルロース
生活コラムニスト ももせいづみ
3年ほど前、フランスの田舎町で知人の家に滞在していたときのこと。食事の準備を手伝いながら「テーブルを拭く布ないの?」と聞いたら、「布? そんなの臭くなるし非合理的。こっちはみんなこれ」と、ポンとスポンジを渡された。
は? スポンジでテーブルが拭けるわけないでしょ、と試したら、これがまあ、本当にきれいになってびっくり。ただし日本でよく使うウレタン製ではなく、植物繊維からできたセルロース製であることが大切。
泡立ちは少ないが少量の洗剤で長く使え、吸水性が布より断然高い。寿命が長く、天然素材であるということも、しまり屋でエコ好きのフランス人に好まれるゆえん。食器用と台ふきん用と分けて2つ置いてあることが多いのだが、ほかにも掃除やカーペットのホコリ取りにまで幅広く使われていて、何に使っても便利で驚いた。特に台ふきんとしては優秀で、なぜ今まで布を使っていたのか、本当に不思議だ。
セルロースの特性に、乾燥が早く雑菌をため込みにくいというのがある。つまり、臭いにくい。台ふきんの臭い問題に悩む人は多いはずで、これは本当にうれしい。おまけにスポンジについた汚れが落ちやすい。吸水性もよいのでカウンターやレンジ内にこぼれた煮汁などもがっちり吸い取ってくれて、実に使い勝手がいい。
良さを一番実感するのは、片手ですすげて絞れること。台ふきんだと両手で洗ってすすいで絞るところを、スポンジなら片手で済んでしまう。たたむのも干す必要もなく、絞ったらポンと置いておくだけ。その楽チンさといったら!
実際の動作としての違いは、おそらく数秒のことだ。その数秒を惜しむのか、と思う人もいるかもしれないが、日々の家事ではその数秒の蓄積が、大きな気持ちの違いを生むものなのだ。
ちなみにドイツや北欧では、スポンジより薄手のセルロースクロスが使われていて、こちらも便利。スポンジもクロスも、乾燥すると固くなるが、これはきっちりと乾いている証し。使うときはぬらしてギュッと絞ってから。
日本では片側に緑のナイロンたわしがついているタイプが手に入りやすい。ナイロン部分は頑固な汚れ落としにも重宝するから、ガス台を拭くのに重宝している。しばらく使って汚くなったら、サッシの溝やベランダの手すりなどの掃除におろして無駄なく使おう。
雑菌が繁殖して臭くなりやすく、管理が面倒だった台ふきん。実は布である必要はなかったのに、なぜ、気がつかなかったんだろう?
家事にはたまにこんなことがあるから面白い。当たり前を疑ってみたらすっと楽になること、ほかにもいろいろあるような気がする。
東京都出身。暮らし、ライフスタイルを主なテーマとするコラムニスト。本コラムを含め、自著のイラストも自ら手がける。「新版『願いごと手帖』のつくり方」(主婦の友社)、「やれば得する!ビジネス発想家事」(六耀社)など著書多数。
[日本経済新聞夕刊2018年2月20日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。