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おばあちゃんがヒロイン 漫画に新ジャンル

2018/2/20付 日本経済新聞 夕刊

幅広い世代から支持を集める

おばあちゃんをヒロインにした漫画がヒットしている。恋をしたり、ネットカフェに行ったり。自分らしく前向きに日々を過ごす高齢者の姿が、幅広い世代から支持されている。

「まり子・80歳 今日 家を出ます」――。刺激的なキャッチコピーが目を引く「傘寿まり子」(講談社)は、傘寿(80歳)を迎えたおばあちゃんがヒロインだ。累計発行部数(既刊5巻、電子書籍含む)は25万部にのぼる。

ベテラン作家のまり子は夫に先立たれ、息子夫婦に孫夫婦、ひ孫と4世代同居する家で居場所を失っていた。ついに家出を決意し、リュックひとつでネットカフェへ。「おばあちゃんでも会員になれたわ」と目を輝かせ、原稿を書いて「家にいる時の何倍も集中できた」と笑う。さらに、若いころに胸をときめかせた男性と再会して「同棲(どうせい)」まで始める。

「傘寿まり子」1巻より(C)おざわゆき/講談社

「お金や健康など老後は不安要素ばかり。だから、30年後に自分がこうなりたいと思う姿を描いた」と著者のおざわゆきは語る。読者は40~70代の女性が中心で「勇気づけられた」「元気がなくなった高齢の母に読んでもらった」などの声が多いという。

「大家さんと僕」(矢部太郎著、新潮社)にも80代のおばあちゃんが登場する。新宿区の一軒家に住む「大家さん」と、40歳のお笑いタレントの交流をつづるエッセー漫画だ。

著者は、お笑いコンビ「カラテカ」のボケ担当。8年前から大家さんの家の2階を借りて親交を深めるうち、漫画に描きたくなったという。「年齢を尋ねると『終戦のときが17歳』、好みのタイプは『マッカーサー元帥』。聞く話がどれもすごく面白い」と話す。

家を隅々まで磨き上げ、伊勢丹で買い物を楽しむ大家さんは「ごきげんよう」と上品な言葉遣いで時折、著者をお茶に招く。「次のおでかけといったら三途(さんず)の川よ」と際どい冗談を放ち、涼しい顔で老いと向き合う。「私も大家さんのようになりたい」と幅広い年齢の女性から支持を集め、発行部数は20万部を超えた。

老女が若者に生まれ変わるファンタジーも人気を集める。10巻までの累計発行部数が43万部を超える高梨みつば著「スミカスミレ」(集英社)は60歳の女性が17歳になり、青春を謳歌する物語。親の介護に人生をささげてきた主人公は男性と手をつないだこともない。「現代の女子高生にはない初々しさが面白く、読者の憧れも誘う」と担当編集者は人気の理由を明かす。

桑佳あさ著「老女的少女ひなたちゃん」(既刊4巻、徳間書店)の幼稚園児、ひなたちゃんも88歳の老女の生まれ変わりだ。「喉が痛い時はこれだっぺ」と蜂蜜と大根で「大根あめ」を作り、ミントガムを口にして「湿布食ってるみてぇだ」と顔をゆがめる。少女のかわいらしさとレトロな感覚のギャップが魅力だ。

「おばあちゃんと過ごした子ども時代を思い出した」といった30代男性の声も寄せられているという。担当編集者は「これからの漫画のキーワードは『ノスタルジック』。疲れている現代人は、懐かしいものに癒やされる」とみる。

高齢者を描いた漫画が売れる背景には「漫画の主要な読者層ではないとされる、中高年以上に支持されたことも大きい」と編集者は口をそろえる。新たな読者を開拓できたというわけだ。「傘寿まり子」のおざわゆきは「描き手にとっても『新市場』」だという。

将来への不安を吹き飛ばし、懐かしさも感じさせる「おばあちゃん漫画」は今後、新ジャンルとして勢いを増すに違いない。

(文化部 佐々木宇蘭)

[日本経済新聞夕刊2018年2月20日付]

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