医療の安全・倫理監査に患者の目 「なれ合い」防ぐ

医療安全や医療倫理について検討する委員会などのメンバーに患者代表を加える動きが医療界に広がっている。第三者の参加で「なれ合い」を防ぎ、患者目線の医療につなげる狙いで、国も普及を後押しする。ただ患者代表の選び方や活動内容には病院間で温度差も目立つ。患者団体が委員の養成講座を開き、「人材バンク」を作る動きもある。

千葉県病院局の医療安全監査委員会には、患者会の代表や医療事故の遺族も参加する(8日、千葉市中央区)

「インフォームドコンセントに使う説明書類はどうなっていますか。患者が後で思い出しやすいような工夫が必要です」。1月中旬、千葉県こども病院(千葉市緑区)を訪れた同県病院局の医療安全監査委員会のメンバーが同病院のスタッフに問いかけた。

同委員会は千葉県がんセンターでの腹腔(ふくくう)鏡手術で多数の死者が出た医療事故の調査を担当した第三者検証委員会の活動を引き継ぐ形で、2016年8月に設置。7人の委員のうち、患者会代表や医療事故遺族が一般委員として2人参加するほか、弁護士や医療ジャーナリズムの専門家らも名を連ね、医師は2人にとどまる。

すでに県立6病院のうち4病院を監査。全委員が病院を訪れ、1日がかりで院長や医療安全担当者、現場スタッフから状況を聞き取る。取り組み内容のほか安全意識が医療現場に浸透しているかも確認する。

県病院局の担当者は「事故の教訓を生かし、患者や遺族の委員も選んだ。厳しい指摘もあるが、外部監査が入り、安全意識がさらに高まる」と強調する。

厚労省が後押し

監査委などへの患者参加は厚生労働省も後押しする。17年4月、大学病院など特定機能病院(計85病院)の承認要件に外部監査委の設置を追加し「医療を受ける者、医療従事者以外」をメンバーに加えることを義務化。19年4月には全国に約400カ所あるがん診療連携拠点病院にも同様の外部監査を求める方針だ。

COMLの委員養成講座ではディベート訓練など実践的な内容で、患者委員の役割を学ぶ(昨年8月、東京都文京区)

運用には課題もある。日本経済新聞社が17年6月、全特定機能病院に調査した結果、患者支援に携わる人物を委員に選んだのは約36%にとどまり、病院の元事務局長や他病院の元看護部長を「患者代表」に選ぶなど、制度の趣旨にそぐわないと受け取られかねないケースもあった。

8つの大学病院で監査委員を務める認定NPO法人「ささえあい医療人権センター(COML)の山口育子理事長は「患者委員に委員長を任せたり、実地監査に参加してもらったりと、積極的に関与させる病院がある一方で、会議資料を何も用意していなかったり、院長が出席しなかったりする病院もある。取り組み状況や意識に格差が大きい」と指摘する。

養成の講座開設

山口理事長は「病院側もどんな人に委員になってもらい、どんな活動をしてもらえばよいのか、戸惑っている面もある」と分析。そこでCOMLは17年7月、「医療関係会議の一般委員養成講座」を開設した。基礎講座の修了者が対象で、ディベート訓練や模擬検討会などを行って、専門家以外の立場から医療安全などの問題をどうチェックし、課題を指摘するかを実践的に学んだ。

17年7~10月までの前期講座では受講者16人のうち6人が修了。山口理事長は今後、修了者を「COML委員バンク」(仮称)に登録し、病院や自治体などの監査委や審議会などに推薦する計画だ。

国立がん研究センターの研究倫理審査委員を務める会社員、松川紀代さんも修了者の一人。同審査委では治験などの計画に不備がないかを検討するが、松川さんも「患者向けの治験説明書の記載が分かりやすいか、リスクが伝わるか、といった視点で発言している」という。

自身も乳がん治療中の松川さんは患者同士が支え合うピアサポーターとして活動した経験もある。医学や統計を巡る専門的な内容は理解が難しい場合もあるが、「専門的な内容は医師らがチェックする」と役割分担を強調。「参加する以上は『お飾り』ではなく、患者の立場で発言することが重要だ」と話している。

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「身内」選んだ事例も

17年6月に日本経済新聞社が実施した特定機能病院の医療安全監査委員会の実態調査では、利害関係のない外部委員として元病院長や元職員の親族など「身内」と受け取られかねない人物を選んだケースもあった。

調査は特定機能病院の指定取り消し中の2病院を含めた計87病院を対象に実施。外部委員として「他病院の医療従事者」を選ぶケースが78病院と最多で、弁護士などの法律家(74病院)や医学以外の研究者(19病院)、企業経営者など(8病院)を選ぶケースもあった。

外部委員の選出方法は「内部推薦」が76病院と大半で、公募した病院はゼロだった。約3割に当たる27病院で女性委員がいなかった。

厚生労働省はこうした現状を踏まえ、臨床研究法に基づき18年4月から臨床研究を行う医療機関などが設置する「認定臨床研究審査委員会」について、男女各1人以上を委員に加えるよう義務付けるほか、医療従事者や元職員を「一般の立場の者」として選ぶことも禁止する方針だ。

(倉辺洋介)

[日本経済新聞2018年2月19日付]

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