「オーディオブック」顔ぶれ多彩 耳で楽しむ臨場感
本の朗読を聞く「オーディオブック」のラインアップが充実している。ビジネス書だけでなく、文芸やライトノベルなども増え、新たなエンターテインメントとして成長を遂げつつある。
「そこは平板に読んでいただけますか」――。先月下旬、東京都世田谷区のスタジオで「難しいことはわかりませんが、英語が話せる方法を教えてください!」という本のオーディオブックの収録が行われていた。ディレクターが原稿を細かくチェック。読み手の声優、利根健太朗氏は「実用書なので聞きやすさを意識した。アニメとは違う技術が必要です」と話す。
効果音などで演出
これはオーディオブック大手のオトバンクによる収録で、完成したものは同社が運営する「FeBe(フィービー)」を通じて配信している。2007年にサービスを開始した際のラインアップは1000作だったが、現在では2万3000作にのぼる。
従来は実用書やビジネス書が中心だったが、今では文芸、人文書など幅広いジャンルをそろえている。オトバンクの上田渉会長は「単に本を聞くものではなく、耳で楽しむ新しいエンタメとして広まりつつある」と語る。
同社は自社スタジオを複数持ち、月200本を制作する。収録台本にはルビを振るため、地名や特殊な読み方を全て調べる必要がある。キャスティングや効果音などの演出は制作チームで議論して決める。
百田尚樹氏の小説「海賊とよばれた男」では、20人もの俳優や声優を起用。ドラマさながらの作りで支持を集めた。上田会長は「読むことでは気づかなかった原作の魅力を引き出すことができるのがオーディオブックの魅力」という。
ネット通販最大手のアマゾンジャパンが15年から始めた定額制サービス「オーディブル」では、20以上のジャンルで約1万タイトルを配信している。先月末にはKADOKAWAと連携し、これまで少なかったライトノベル作品を拡充した。
今月8日からは、TVアニメ化もされた「この素晴らしい世界に祝福を! 第一巻(上)」を配信。朗読者にはTVアニメで主要キャラクターを演じた声優の雨宮天氏を起用し、アニメの世界に近づけている。
今後は「スレイヤーズ」や「ロードス島戦記」など30~40代にも人気が高い作品の配信も予定する。オーディブル事業部の逢阪志麻部長は「アニメファンとオーディオブックとは相性がいい。声優さんを入り口にして、多くの人に親しんでもらえれば」と意図を話す。
AI機器が追い風
普及の追い風になりそうなのが、昨年、日本でも続々発売された「スマートスピーカー」の存在だ。AIを活用できるスピーカーで、話しかけるとニュースの読み上げやラジオ、音楽の再生などをしてくれる。日本語ではまだオーディオブックに対応していないが「米国ではサービスが始まっており、愛好者も多い。日本でも近い将来、対応するはず」(逢阪部長)。
もしそうなれば、スマートスピーカーに話しかけるだけでオーディオブックを容易に聞けるようになる。
ニーズの拡大をにらみ、ラジオNIKKEIでは昨年11月から、オーディオブックを紹介する番組「朗読BOOKSHELF」(水曜午前11時50分)を始めた。オトバンクが運営するフィービーと連携し、本の朗読音声を数回に分けて流している。久保真人ディレクターは「平日昼間は最もリスナー数の多い時間帯の一つ。忙しくて本が読めないビジネスパーソンに新たな選択肢を提示したい」と番組の狙いを話す。
現在は安田正氏の「超一流の雑談力」を放送中だ。こうしたビジネス書に限らず今後、幅広い作品を紹介する予定という。オーディオブックの普及はラジオ業界にとっても有益だ。久保ディレクターは「目で楽しむコンテンツは既に飽和状態だが、耳はまだ空いていると感じる。オーディオブックが広がれば、耳で楽しむコンテンツが見直されるはず」と期待している。
(文化部 赤塚佳彦)
[日本経済新聞夕刊2018年2月19日付]
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