西郷どん好物、とんこつ 豚バラ煮込んで骨まで味わう

熊襲亭では1966年の創業以来継ぎ足してきた煮汁を使い、変わらぬ味に仕上げる
熊襲亭では1966年の創業以来継ぎ足してきた煮汁を使い、変わらぬ味に仕上げる

「とんこつ」はさつまあげやキビナゴなどと並ぶ鹿児島県民のソウルフードだ。ラーメンではなく、骨付きの豚バラ肉を野菜などと煮込んだ料理を指す。今年のNHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」の主人公、西郷隆盛も好物だったという。一般家庭でも作るが、郷土料理店も工夫を凝らし独自の味を競っている。

日本では仏教や神道の影響で江戸時代も獣肉食が忌避された。だが江戸や京都から遠かった薩摩藩はそうした観念が薄く、豚肉食が盛んな中国や琉球の影響を受けた。薩摩藩は1609年に琉球に侵攻し、支配した。とんこつは武士たちが狩り場などで作ったのが始まりと伝わる。

陸の玄関口、JR鹿児島中央駅から市電で約5分。鹿児島市中心部にある繁華街・天文館にはとんこつに力を入れる郷土料理店が目立つ。

鹿児島市のさつま路は作り始めて3日目のとんこつを提供する

1959年創業のさつま路もその一つ。「ウチで最も手間暇をかける料理だ」。地頭所信行調理長(52)が教えてくれた。同店は作り始めから3日目で提供する。骨から出るだしや田舎味噌の味がコンニャクにまで染み込んで、一番おいしくなる頃合いだという。芋焼酎や黒糖も使うが味はしつこくない。調理時間が長い割に肉の歯応えはしっかりしているが、硬い骨以外は軟骨も残さず食べられる。

さつま路にほど近い熊襲亭も、とんこつを会席風の「正調さつま料理」を構成する看板料理の一つとする。66年の創業当初から継ぎ足しながら使う煮汁で味付けするのがポイント。「お客様のニーズを常に意識するが、料理の味は変えずに提供している」と女将の黒川牧子さん(63)。使う野菜は冬場は桜島大根、春はタケノコ、夏場はトウガンと旬を意識している。

奄美料理の群倉のとんこつは塩味ベース

奄美料理の群倉(ぼれぐら)のとんこつは塩味ベース。調理に味噌や焼酎、砂糖を使わない。奄美大島出身の店主、小島市枝さん(70)によると「昔ながらの作り方をしている」そうだ。豚肉の塊に塩をすり込んで新聞紙に1週間ほど包んで余分な脂肪を取る。下ゆでして塩を抜き、大根と一緒に煮る。冬場は葉ニンニク(フル)がアクセント。素朴な味わいはアルコール度数が高い黒糖焼酎にピッタリだ。

鹿児島史研究の第一人者、原口泉氏(志学館大学教授)によると、西郷はとんこつを食べるとき骨までしゃぶりエキスを吸収した。「剛を尊ぶ薩摩らしい食べ方だ」(原口氏)。明治維新から150年。鹿児島で西郷流にとんこつを味わい、国のかたちが大きく変わった幕末・明治期に思いをはせるのは一興だろう。

<マメ知識>鹿児島県民は豚肉好き
鹿児島県人は豚肉好きだ。家計調査によると、鹿児島市は豚肉への1世帯あたり年間支出金額(総世帯)が2016年で2万2966円。全国平均より736円多く、牛肉(1万7409円)や鶏肉(1万2887円)を大きく上回った。スーパーのタイヨー(鹿児島市)は鹿児島・宮崎県約90の全店でとんこつに向く骨付き豚バラ肉を定番として扱う。
カルビーは47都道府県の「地元ならではの味」のポテトチップスを開発するプロジェクトを展開中。「豚骨みそ煮味」は2017年度の「鹿児島の味」として販売された。

(鹿児島支局長 松尾哲司)

[日本経済新聞夕刊2018年2月15日付]