コマ撮りアニメ映画、公開相次ぐ アナログな魅力
人形などを少しずつ動かして撮影する、コマ撮りアニメーション映画の公開が相次いでいる。実写さながらに見えるCGアニメ全盛の今、手作りのアナログ映像が新鮮に映る。
ぼんやりと列車の窓を見つめる傷心のピアニスト、旧式のブラウン管テレビでプロ野球を観戦する下町の理髪店主人……。映像作家・村田朋泰が作り出すコマ撮りアニメはどこか懐かしく、温かみと切なさが同居する。
せりふは一切なく、人形の目やしぐさで感情を表現する。「言葉に頼るのではなく、映像で観客の感性を刺激し、心に何かが残るようなものを作りたい」と村田監督。この15年間に創作した7作品を集めた映画「夢の記憶装置」が、3月17日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムを皮切りに公開される。作品が全国規模で上映されるのは初めてのことだ。
映像にぬくもり
東京芸大在学中に文楽やチェコのアニメに触発され、独学でコマ撮りアニメを始めた。映画には通常1秒24コマの画像があるが、村田監督の場合は15コマ。人形を少し動かしては写真を撮り、15枚の写真をつなげて1秒の動画にする。コマが減る分、動きになめらかさは欠けるが「人が人形を動かしていると感じられることが、このアニメの魅力。ミニチュアセットに人形を置き、その空間の中で人形に演技をさせることで、ぬくもりのある映像が生まれる」と考える。
コマ撮りアニメはストップモーション・アニメとも呼ばれる。人形だけでなく、粘土や砂、紙などを動かすアニメもある。かつては実写映画の特殊効果にも使われた、古くからある手法だ。そんなアナログの極みともいえるアニメ映画の公開が相次いでいる。
「ぼくの名前はズッキーニ」(公開中)もその一つ。スイス出身のクロード・バラス監督が初めて手がけた長編で、世界各地の映画祭で賞を受けた。
丸い大きな目をした9歳の少年が主人公だが、内容はシリアスだ。寂しさを酒で紛らわしていた母を亡くし、児童養護施設で暮らすことになった少年がいじめや初恋を経験しながら、自分の居場所や希望を見つけていく。
細かな手仕事
登場人物たちはラテックス製の発泡体やシリコンなどを素材にした、高さ25センチメートルほどの人形だ。あえて頭を大きくしているのは、眉やまぶた、口のパーツを変えることで感情を表現するためという。「難しいのは不安や迷いといった微妙な感情。まばたきのスピードも子どもの感情を表現する重要な要素だ。そうした撮影は撮り直しが難しく、瞬間瞬間の判断を強いられる」とバラス監督。
こうしたアニメについて、バラス監督は「仮面をつけて物語を語る文化は太古の昔から各地にある。そういう意味で、人形を使ったアニメは人々になじみのあるものだと思う。呪術を担うシャーマンに通じるのではないか」と見ている。
米国のアニメスタジオ、ライカが制作した「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」(公開中、トラヴィス・ナイト監督)は三味線を手にした少年が登場する日本を舞台にした作品だ。人形を使ったアナログの手法に3Dプリンターの最新技術を加え、表情のなめらかな変化を可能にした。いわばコマ撮りアニメの進化形だ。「グランド・ブダペスト・ホテル」など実写映画で知られる米国のウェス・アンダーソン監督「犬ヶ島」も日本を舞台にしたコマ撮りアニメ。今月のベルリン国際映画祭でお披露目し、5月に日本公開予定だ。
細かな手仕事の多いコマ撮りだが、それでも華やかなCGアニメほどの制作費はかからないといわれる。技術も若い世代に引き継がれている。
村田監督は、東日本大震災を機に「アニメは、何かを記録し伝える装置としても機能するのではないか」と感じたという。映画の中の一作「松が枝を結び」はそんな思いで制作した、震災で引き裂かれた双子の姉妹の物語だ。
(文化部 関原のり子)
[日本経済新聞夕刊2018年2月13日付]
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