舞妓はんが愛する玉子サンド 京都はパンの消費日本一
京都市はパンの消費量が日本一の町として知られる。だし巻き卵が食卓で愛される食文化も手伝ってか、サンドイッチの中でもとりわけ玉子サンドが人気だ。東山区の祇園地域の喫茶店では、歌舞伎役者や花街の舞妓(まいこ)らが忙しい稽古の合間を縫って食べられるように小さなサイズに切り分けるなど独自の工夫が凝らされている。
京阪電鉄の祇園四条駅のそばの劇場「南座」のすぐそばにあるのが、喫茶店、コーヒーショップナカタニだ。1972年創業の同店を訪れるのは、南座に出演する歌舞伎役者や観劇客、花街の舞妓たち。玉子サンドは人気メニューだ。地元の老舗・丸善パン(京都市)の特注角食を薄切りして香ばしく焼き上げ、ゆで卵を崩して薄切りのキュウリを挟んだ。味付けは塩とマヨネーズでシンプルに仕上げ、素材の味を生かす。さくさくしたトーストに塩加減のきいた卵が絶妙で飽きが来ない。
店主の中谷●(潔のさんずいがなし)さん(72)は「忙しい役者たちがいつでも簡単に食べられるよう、ゆでた卵を挟んだ後、一口サイズに小さくカットした」と語る。興行で京都に来るたび買い求める役者も多い。近隣の五花街などに配達する際は、専用の岡持ちに入れて運ぶ。
八坂神社の西に面した路地の一角にあるフランス料理店、グリルグリーン。木屋町の喫茶店を閉め、祇園で再オープンしたが、喫茶店時代からの人気メニューである玉子サンドはカレーライスとともにコースのしめに提供する。
牛乳などの水分を加えず、卵3個を塩こしょうのみでシンプルに焼き上げたふわふわのオムレツを、薄い食パンで挟む。オムレツはパンからはみ出るほど。オーナーシェフの足立浩行さん(50)は「祇園に飲みに行く前に寄ったお客さんから、おなかいっぱいになりすぎないようにと要望を受け、パンを減らす代わりに卵を増やした」という。濃厚な卵の風味が感じられる。卵が焼きたて熱々のうちに味わうのがおすすめだ。
花見小路通近くの喫茶店、切通し進々堂が提供するのは、香ばしく焼いて半分に切ったトーストに、空気を含ませてふんわり焼き上げた厚焼き玉子を挟んだ「玉子トースト」、パンを焼かないベーシックな「玉子サンドイッチ」だ。あっさりとした味付けの卵がおいしい。2代目店主の藤谷攻さん(74)は「稽古帰りに立ち寄る舞妓さんが多く、ボリュームのあるトーストを上から押しつぶして小さく食べるのがコツ」という。
玉子サンドというと、ゆでて崩した卵をマヨネーズなどであえて挟むことが一般的だが、関西では厚焼きの卵焼きを食パンで挟んだものも多い。木屋町にあった喫茶店「コロナ」の玉子サンドが火付け役で、雑誌の特集記事などで脚光を浴び、関西風のだし巻き卵を挟んだ玉子サンドを出す喫茶店がじわじわと増えたという。
「コロナ」は閉店したが、地下鉄の烏丸御池駅から徒歩10分足らずの喫茶店「マドラグ」がコロナの直伝レシピをもとにした玉子サンドを現在でも提供している。
(京都支局長 松田拓也、京都支社 山本紗世)
[日本経済新聞夕刊2018年2月8日付]
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