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安室奈美恵 17日からツアー 引退、私はこう見る

2018/2/6付 日本経済新聞 夕刊

CDショップでは200万枚を突破したベストアルバムなど安室奈美恵の特集コーナーがある(東京都渋谷区のタワーレコード渋谷店)

 1992年にデビューし、今年9月で芸能界を引退すると発表した歌手の安室奈美恵。17日には最後のドームツアーが始まる。2人の識者に彼女が日本の音楽界や社会に与えた影響を聞いた。

■音楽評論家・渋谷陽一氏「日本の音楽界に革命」

 日本のポップミュージックシーンにおいて特異な存在だ。なぜかというと、日本のポップスターはアイドルまたはシンガー・ソングライター、あえてもうひとつ加えればディーバ(歌姫)系のいずれかに属する。そのどれでもないアーティストとして唯一成功したのが安室奈美恵だからだ。

 アイドルとしての地位を築いた後は、誰かにプロデュースされる訳でなく、自律的な表現活動をしっかりと続けている存在となった。世界的にはビヨンセやマドンナがいる。彼女らは楽曲制作に関与するが、シンガー・ソングライターという立ち位置ではない。

 自己を形成したアイドル時代を経て、自分の世界観でしっかり自身を表現したいという思いが育ったのだろう。楽曲もアレンジも、ステージ演出もメディア露出も、何もかも自分で決めるR&Bシンガーとして歩み出した。

 ファンはステージで動いている安室奈美恵を見ることで最大の快楽を得る。歌やダンスといった肉体的能力だけでない圧倒的な表現力も持っている。だからこそ日本においてはマイナーなR&Bが、彼女が歌って踊ることで多くのファンに支持された。言ってみれば歌がオリジナルであろうと何であろうと構わない。

 表現者に脱皮し、誰もやったことのないパフォーマンスをやり抜いた。しかも女性の支持を得ているところがすごい。日本の音楽界で革命を成し遂げたアーティストと言ってよい。

 引退は、彼女の自己プロデュースの究極の選択とも言える。しかし、それよりもおそらく、やり続ける必然性を見いだすことができなくなったからなのだろうと感じている。

■社会学者・太田省一氏「自己貫く生き方 共感」

 「あのひとのように生きたい」と思わせるのが、スターの魅力のひとつだ。結婚・引退して専業主婦になった1970年代の山口百恵、母親になっても歌手を続けた80年代の松田聖子は、そんなスターである。

 対照的な2人だが、共通するのはテレビからスターになったことである。山口百恵はオーディション番組「スター誕生!」出身であり、松田聖子の人気は「ザ・ベストテン」など当時の歌番組とともにあった。

 ところが、安室奈美恵は違う。特に近年はライブ中心の活動になり、テレビからは遠ざかった。

 日本のテレビは、高度経済成長期の“一億総中流”意識を基盤に発達した。しかし、90年代に入ると、経済の停滞とともに“一億総中流”意識にも陰りが見え始めた。その結果、社会の中心ではなく周縁に置かれた人々が徐々に強い存在感を示すようになった。

 たとえば、女性がそうだ。

 90年代中盤、安室奈美恵のファッションやメイクをまねた「アムラー」が流行した。それは一方で、既存の「女性らしさ」にとらわれない若い女性たちの自己主張でもあった。

 安室本人はその後シングルマザーになり、歌手と子育てを両立してきた。さらに今度は、自ら決断しての引退。彼女が同性から熱く支持されるのは、そうした自己を貫く生き方への共感があるからに違いない。

 日本社会はいま、大きな転換期にある。そのような時代には、これまで光の当たらなかった社会の周縁にいち早く変化の兆しが現れる。戦後日本の周縁性の象徴とも言うべき沖縄出身の安室奈美恵は、そんな周縁を照らし出す現代のスターなのである。

[日本経済新聞夕刊2018年2月6日付]

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