新国立劇場に新芸術監督 オペラ、レパートリー拡充
開場20周年を迎えた新国立劇場で今年9月、オペラ、演劇の新芸術監督が就任する。秋からの新シーズンのラインアップをこのほど発表、興行システムの改革に踏み込む意欲を示した。
オペラ部門の次期芸術監督、大野和士が改革を打ち出したのは「レパートリーが先細りになる」との危機感から。打開策のひとつは"脱レンタル"だ。
再演スムーズに
海外の劇場が制作したオペラを新国立劇場が上演する場合、従来は演出や舞台のデザインにあたる部分を「借りる」形が大半だった。1上演(数回公演)ごとの契約で、そのつど装置や衣装を外国から借りる。上演が終われば返却するから、再演時も新たに契約を結び、借り直さなければならなかった。
これに対し、大野が掲げたのは「買い取る」手法。上演権を買い、装置や衣装を国内で保管する。装置などは日本で作ることも可能となる。美術家ウィリアム・ケントリッジ演出による「魔笛」(モーツァルト作曲)がその最初の試みだ。ベルギーのモネ劇場で初演された舞台だが、今回は装置の一部を日本で作る。「やりたいとき、いつでも上演できるようになる。自然とレパートリーは増える」と大野はもくろむ。
さらに新制作を年間3本から4本に増やし、そのなかに「ダブルビル」を導入する。1幕もの2作品を同時上演する取り組みで、最初はフィレンツェが舞台の2作「ジャンニ・スキッキ」(プッチーニ作曲)と「フィレンツェの悲劇」(ツェムリンスキー作曲)の組み合わせだ。
57歳の新監督はフランスのリヨン歌劇場首席指揮者などを務め、海外のオペラ人脈にも通じている。公演費削減が続くなか、世界基準のオペラハウスを目指す難しい課題と向き合う。新制作には1シーズンおき、2年に1回の頻度で日本人作曲家への委嘱作品を加え、東京発の新作を世界に発信していきたいという。
配役は公募で選考
演劇部門ではこれまでで最年少の芸術監督が誕生する。39歳の演出家、小川絵梨子で「質の高い舞台をつくる」ためには「興行システムの実験と改革」が必要と訴える。
柱のひとつはフルオーディションだ。日本の演劇界では、スター俳優の動員力や芸能プロダクションの意向で配役が決まることが少なくない。全配役をオーディションで決めることで「作り手が作品そのものと純粋に向き合う」創作現場を生みだしたいという。
第1回は2019年4月に上演予定の鈴木裕美演出「かもめ」(チェーホフ作)で、毎シーズンに1本組み込む計画だ。小川によると、日本では「ちょっと勉強に来ました」という感覚で演劇にかかわる俳優がいる。「役をかちとったという強い気持ちがほしい」
ロンドンのナショナル・シアターにならって取り入れたのが「こつこつプロジェクト」(19年3月)で、長期間の創作プロジェクトを複数継続させる。リーディング公演、内部での発表会をへて「鑑賞と批評にたえる強度をもった」段階で上演する。俳優養成の研修所との連携も模索されよう。劇団に所属しない3人の新進演出家、大澤遊、西悟志、西沢栄治が1年間の創作に参加する。
演劇の稽古は1カ月程度が通例だが、小川は「足りないという実感がある」と話している。
舞踊部門は再任の大原永子芸術監督が英国ロイヤル・バレエで初演された「不思議の国のアリス」をオーストラリア・バレエとの共同制作で上演する。
[日本経済新聞夕刊2018年1月30日付]
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