『サファリ』 人間という動物の不気味さ
「パラダイス」3部作で現代人の孤独と欲望を独特の映像世界で描いたオーストリアのウルリヒ・ザイドル監督の新作である。現代のアフリカ・ナミビアを舞台に、トロフィー・ハンティングを愛好するヨーロッパの人々の姿を醒(さ)めた視線から見つめている。
トロフィー・ハンティングとは、もとは王侯貴族の支配権力を誇示する狩猟の趣味に由来するが、近代ではお金持ちの顕示欲を示す高級な遊びとなった。現在ではアフリカ各国が貴重な観光資源としてハンティング愛好家を受け入れているが、当然ながら動物保護の立場から野生動物の殺戮(さつりく)を批判する人々も多い。
映画は、ドイツ人やオーストリア人など何組かのハンターが草原で獲物に密(ひそ)かに近寄ってライフル銃で撃ち殺す姿を、ハンターたちの目線にカメラを密着させて描きながら、それらのシーンにハンティングロッジのオーナーを含めた狩猟家たちへのインタビューを交えて展開される。
ハンターたちは狩猟後の現場で仕留めた獲物を傷口の血を拭って横たえ、その背後にライフル銃を持って誇示するような格好で記念撮影する。その姿をカメラは冷ややかに凝視するが、ハンターたちがカメラの前で語る言葉と相まって、人間の傲慢さを見る思いがしてならない。
後半に現地のアフリカの人々が獲物を解体するシーンが出てくるが、彼らはほとんど何も語らずに寡黙に作業を行い、その仕事の報酬のように獲物の肉を焼いて食べる。白人と黒人、文明と野生、饒舌(じょうぜつ)と寡黙など相対する要素から映画は現実感を醸し出していく。
ザイドル監督はトロフィー・ハンティングの実態を実際の狩猟愛好家を俳優のように配し、善悪のモラルを排して描き出している。その特異な演出から浮き彫りになるのは、人間という不気味な動物の姿である。1時間30分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2018年1月26日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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