『スリー・ビルボード』 闘う女性と米国人気質
寂れた街道沿いに立つ3つの看板に広告を出して町中を敵に回した母親。それぞれの看板には真っ赤な地に黒々と「レイプされて死んだ」「なぜ? ウィロビー署長」「犯人逮捕はまだ?」の文字が書かれている。
日本でも古くから知られたアイルランド民謡「庭の千草」が流れ、ジョン・フォード監督が描く西部劇の世界を思い出させるように始まるドラマは、英国人マーティン・マクドナーの監督・脚本・製作。エキセントリックなサスペンス劇「セブン・サイコパス」(2012年)に続く彼の長編3作目。娘を殺された母ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、看板広告をだすと戦闘態勢に。
誠実に捜査を重ねても結果の出ない署長(ウディ・ハレルソン)はガンで闘病中の身。黒人虐(いじ)めの差別警官ディクソン(サム・ロックウェル)は署長を悩ませる看板が気に入らず、広告屋を2階の窓から投げ飛ばした。反抗期だった娘に最後に投げたキツイ言葉に苦しむミルドレッド。元夫は、死んだ娘と同じ年頃の小娘と暮らしている。
家庭の事情も病気も町中に筒抜けの米ミズーリ州の田舎町エビング。自分なりの正義に燃える母親と病と闘う署長、敬愛する署長の言葉ではじめて自分のこれからを考える時がくる警官のドラマは、深刻でありながら苦い笑いを交えて深みをだし、やがて予想を超えるシュールな結末へとたどり着く。死者は生き返らないという現実を前にしたとき、こんな結論もアリか。
町の人々は自分の正義を疑わない。悪人は他国者という排他的な考え方。それは今も昔も変わらないアメリカ人の気質なのだろう、と描く監督は米国伝統の西部劇の心の故郷アイルランド人を両親に持つ。昔ながらの世界とはいえ、いまやヒーローは闘う女性に代わった。時代は変わってもヒーローはカッコいいのだ!1時間56分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2018年1月26日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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