韓流ブーム、次は「K文学」 ポップな面白さに共感
現代韓国文学の邦訳刊行が活況だ。複数の出版社が中堅作家の作品を続々と紹介し、シリーズ化している。韓流ブームによりドラマ、映画、音楽は身近になった。次は「K文学」だ。
東京・神保町の古書街に、韓国関連の書籍やカレンダーなどの雑貨をそろえたブックカフェ「チェッコリ」がある。開業は2015年7月。オーナーは出版社「クオン」の代表である金(キム)承福(スンボク)氏だ。現代韓国文学の邦訳出版の火付け役でもある。
金氏は韓国出身。ソウル芸術大で詩を学び、日大芸術学部に留学した。広告代理店に勤めた後「韓国文学を日本で紹介したい」と07年に「クオン」を設立、11年に「新しい韓国の文学シリーズ」の刊行を始めた。
友情や格差描く
英国の文学賞「ブッカー国際賞」を受けたハン・ガン「菜食主義者」を皮切りに、計17冊を出してきた。「どれも私がほれ込んだ作品。いいものは誰が読んでもいいし、『クオン(永遠)』なのです」と語る。
韓国文学の邦訳は、以前は日本の植民地支配や朝鮮戦争、独裁、民主化闘争をテーマにした作品が多く、読者層も政治に関心のある層などに限られていた。
しかし2000年以降、民主化以降の社会を謳歌し、欧米や日本の文化を吸収した30~50代の作家が台頭した。作品テーマも友情や恋愛から、格差や就職難まで幅広くなった。金氏は「こうした作品に国境はない。いい小説をたまたま韓国人が書いた、というふうに受け入れられている」と話す。「新しい韓国の文学シリーズ」には日本での発行部数が1万部を超える作品もある。「韓国の小説が『K文学』として人気が出るとうれしい」と金氏。
晶文社は昨年10月から「韓国文学のオクリモノ」シリーズを出し始めた。担当編集者の斉藤典貴氏は、クオンの活動に触発されて企画を練ったという。「1970年代以降の作家にポップな面白さを感じた。新しい文学の波を日本に紹介したいと思った」
韓国語に堪能な斉藤氏自身が首都ソウルに出かけて書店を回り、書店員に「いま一番のお勧めの小説は何か」と聞いて20作品ほどをリストアップした。日本に戻ると複数の翻訳者に読んでもらい、6冊に絞り込んだ。5月までにシリーズを完結させる予定だ。
既に刊行された作品は、過酷な競争社会を弱小プロ野球球団に重ねて描いたパク・ミンギュの「三美スーパースターズ」や、現代の若者のリアルな日常を描いたキム・エランの短編集「走れ、オヤジ殿」など。ポップな装丁もあり、若い読者を開拓している。「際だった個性を楽しめる」「韓国も日本と同じ事で悩んだり喜んだりしていることを知ることができた」などの反響が寄せられている。最近は韓国文学を集めたフェアを開く書店もある。
政府が翻訳に助成
近年韓国で増え始めたSFやミステリーなどの「ジャンル小説」を邦訳する動きもある。福岡市の出版社、書肆侃侃房の「韓国女性文学シリーズ」第3弾、チョン・ユジョン「七年の夜」だ。田島安江社長は「韓国でとてもよく売れている作家の代表作。500ページを超える長編だが、自分が読んで面白かったから日本で推せると思った」という。
河出書房新社も今後、邦訳を予定している。韓国政府が小説の海外での翻訳に助成金を出すケースが多いこともあり、ブームは続きそうだ。韓国文学の邦訳を手掛ける吉川凪氏は「韓国の現代作家は、いまを生きる人々の生活をよく描いている。日本で読者が増えているとしたら、今の韓国社会が抱える問題や人々の生活が日本と似ていて、共感しやすい作品が増えたからではないか」とみる。
(文化部 近藤佳宜)
[日本経済新聞夕刊2018年1月23日付]
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